2018 Fiscal Year Annual Research Report
典型金属の触媒化:元素読み替えに相当する性状制御手法の開発
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18H01977
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安田 誠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40273601)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ルイス酸 / ホウ素 / アルミニウム / 立体選択的反応 / 触媒 / 反応場 / 典型金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) アルミニウムの単核錯体による触媒化をめざし、すでにホウ素で実績のあるトリエフェノキシ配位子を用いた検討を行った。これまでは多核錯体が得られていたが、単核を目指すためにオルト置換基や反応試薬の添加順を検討することで単核錯体の合成に成功した。ピリジンが最も適する外部配位子で、4配位錯体として単離することができた。オルト置換基として臭素を付したものの合成にも成功した。この錯体が、イミデート保護した糖類によるグリコシル化反応の触媒として、きわめて高い活性を示すことが判明した。さらに、ほぼ完全な立体選択性(SN2型)で反応が進行し、室温での実用性の高い触媒として期待される。また、本アルミニウム錯体は、外部配位子であるピリジンが反応系中で解離することなくアルミニウム上に結合し続け、そのルイス酸性を適度に低減していることが反応進行の鍵であることがわかった。さらに、ピリジン配位が立体障害を有し、SN1反応の混在を防ぐことにも寄与している。外部配位子であるピリジンを他の化学種に変更することで、その反応性を緻密制御できるとの知見も得、発展の余地が見出されてる。 (2) 立体選択性を目指した合成試薬として、アルミニウムにかわりゲルマニウムを用いた反応を検討した。アリルゲルマニウムは有用なアリル化剤であるアリルシランやアリルスズの同族化合物で、その構造と物性の検討は重要である。本検討の中で、世界ではじめて14族アリル金属の高配位化種の単離とX線構造解析に成功した。また、これらの誘導体の合成と反応性の相関に関する系統的な情報を得つつある。配位子の種類によってカチオン性錯体として安定化する場合や、高配位状態を強く維持する場合に分かれ、それぞれ異なる反応性を示した。この知見をもとに、分子内配位を有するアリルゲルマニウムの反応を検討し、4配位と5配位で異なる幾何異性体を生成する反応を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アルミニウムの単核錯体を再現性良く合成することに成功した。これまで、非常に再現性が悪く、その性状を解析することが困難であったが、試薬の添加順と外部配位子の関係をつかみ、多くの錯体の合成に成功したことはたいへん大きな進展であった。このため、今回行ったグリコシル化反応において、きわめて高い触媒活性を示すアルミニウム錯体が、合成化合物の中でただ一つだけあったことは、合成法の確立によるところがきわめて大きい。この結果は、当初予想していた結果を大きく上まわり、またその反応結果も世界最高峰のものであった。JACSに速報として掲載され、またその表紙も飾ることとなり、国内外に大きくアピールすることができた。これをもとに、多くの研究者との議論がはじまり、動いているものと企画段階のものを含めて、5件以上の共同研究に発展する可能性をもったテーマとなった。 また、アルミニウムよりも基本配位数の多い14族金属を用いた検討を行なっている中で、偶然アリルゲルマニウムの安定化構造を見出すことができた。これは、世界で初めての14族アリル金属の高配位体であった。あらためてこの研究をアリルシラン、アリルスズの系から議論し、構造と物性の関係をアリルゲルマニウムで行うことが最適であると判断して、当初計画にはなかったが、ゲルマニウムの研究をはじめた。その結果、きわめて多くの活性種を合成単離し、立体選択的な反応も見出した。反応場制御および典型元素の可能性を見出す本課題の趣旨に合致し、さらなる検討を続ける計画である。またここで得られた知見は、本来の13族ルイス酸の検討にフィードバックする。アルミニウムのルイス酸は高配位化状態で触媒反応を起こすことをNMRおよびX線構造解析からつきとめており、その詳細な検討を深める情報の提供に寄与すると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 今回、立体選択的触媒としての機能を発揮したアルミミウム錯体の研究をさらに発展させるために、グルコース以外の糖類への応用をめざす。マンノースではすでに隣接基効果が発現する系であるが、それを逆転する選択性を見出すことができれば、従来には全くない新しくかつ効率的な反応系を提供することができる。 (2) アリルゲルマニウムの検討は、高配位化の観点からアルミニウム-ルイス酸と共通点が多く、その発展をめざす。すでに、ホウ素置換アリルゲルマニウム種の合成を予備的実験により成功しており、ホウ素試薬とゲルマニウム試薬の双方の性質を兼ね備えた物性が期待できる。これは、典型元素の有用性を大いに発揮する反応系と位置づけられ、本研究課題に合致する。 (3)新規パイ系化合物の研究を別途行なっており、ビラジカル性と反芳香族性を有する縮合多環式化合物の合成に数多く成功している。この部位をルイス酸骨格に付し、そのスピン効果をルイス酸の反応へと転写し反応制御を行う。これは、当初の研究計画に記載していたものであるが、最近の研究の進捗から、より多彩な縮合多環式化合物を合成することに成功したため、多様なルイス酸合成の研究を行う準備が整っている。今後はこの検討を系統的に行ない、スピン制御ルイス酸の確立をめざす。 (4) カゴ型ホウ素錯体にピレン系化合物を導入し、光物性を検討する。光とルイス酸性の関係はすでに研究計画に記載しているが、最近ピレン導入型ルイス酸の合成に予備的に成功しており、この分子を中心とした検討をまず行う。当初は選択性、活性に対する評価を行い、さらに芳香族選択性の研究へも発展させ、従来を超える高い選択的反応を目指す計画である。
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Research Products
(15 results)