2019 Fiscal Year Annual Research Report
Organic light-emitting diodes possess 200% exciton production efficiency
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18H02047
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 一重項励起子開裂 / 有機EL / 熱活性化遅延蛍光 / エネルギー移動 / 項間 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1) 熱活性化遅延蛍光過程の利用による一重項-三重項スピン変換、(2) 一重項励起子開裂(singlet fission:SF)過程による三重項励起子生成の二つの異なるスピン変換機構を融合することにより、有機発光デバイスにおける励起子生成・利用効率の飛躍的な向上を本研究の最終目標をしている。H30年度は、ルブレン分子をSF能を有するホスト媒体、Er錯体をNIR発光ゲスト分子とした有機EL素子を作製・評価した結果、電荷再結合により生成した一重項をSF過程によりEr錯体からのNIR発光として利用可能であり、その三重項生成収率が電流励起下においても100%を超えていることを明らかにした(Adv. Mater., 30, 1801484, 2018)。これは世界初のSF型有機EL素子の開発に成功した成果である。また最終目標である励起子生成効率200%を示す有機ELを実現するには、SF分子へとsingletエネルギーを移動させる熱活性化遅延蛍光(TADF)分子の開発も必要である。R1年度は、TADF分子で観測される逆項間交差のメカニズム解明に取り組んだ。TADF現象の鍵は、一重項励起状態と三重項励起状態間で「いかに効率よくスピン変換させるか」という点にある。始状態と終状態は自明であるが、そのスピン変換過程の遷移状態およびダイナミクスは未解明であった。R1年度は、複数個の電子ドナーおよび電子アクセプター基から成るTADF分子でのスピン変換が特定の遷移状態を経由して進行することを初めて実験的に証明した。さらに、その遷移状態はTADF分子を構成する部分分子構造に由来する電子状態であり、分子振動をトリガーとして電子構造変化が生じることを、実験および理論計算の両面から解明することに成功した(Nature Materials, 18, 1084, 2019)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R1年度研究計画では、 ①一重項励起子開裂分子(ルブレン分子)に効率的に一重項励起エネルギーを移動することができる熱活性化遅延蛍光(TADF)分子の選定および光物性評価、②光励起によるTADF分子→一重項励起子開裂分子のエネルギー移動の実証をマイルストーンとした。本年度の研究では、①について以下に記載の通り重要な進展があった。最終目標「有機EL素子における励起子生成効率200%の実現」を達成するためには、一重項励起子開裂分子に電荷再結合で生成した全一重項エネルギーを移動させる必要がある。これを実現するには、電荷再結合で直接生成する三重項励起子を一重項へとスピン変換可能なTADF分子を用いる必要がある。しかし、TADF分子の詳細なスピン変換機構は未解明であり解明する必要がある。R1年度の研究では、高効率発光かつ比較的早いスピン変換速度を示すCzBN誘導体をモデル化合物として選定し、これら複数個の電子ドナーおよび電子アクセプター基から構成されるTADF分子でのスピン変換が特定の遷移状態を経由して進行することを初めて実験的に証明した。さらに、その遷移状態はTADF分子を構成する部分分子構造に由来する高次の励起三重項準位であり、ある特定の分子振動をトリガーとして電子構造に変化が生じ、一重項状態と三重項状態間の混合が促進されることを解明した(Nature Materials, 18, 1084, 2019)。本成果より、TADF分子群におけるスピン変換を統一的に説明可能となった。また解明したスピン変換メカニズムは、自由自在なスピン変換特性の制御を可能とする分子デザインに向けた基盤知識となると期待できる。②ではCzBN誘導体をドナー、ルブレンをアクセプターとする薄膜でエネルギー移動が生じることを確認した。以上より、R1年度までの研究進捗状況は順調に進展していると自己判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度の研究においてSingletFission型有機EL素子の概念実証に成功し100%を超える励起子生成効率が達成可能であることを初めて見出した。またR1年度の研究では、熱活性化遅延蛍光分子におけるスピン変換機構が高次の三重項励起状態を経由して進行していることを解明し、目的に適したスピン変換速度を有する分子をデザインすることができることを見出した。これらの研究成果は、本研究の最終的な目標である「電流励起による励起子生成効率200%の実現」を達成するための重要な知見である。今後はこれまでに得られた知見を融合することで、本研究の最終目標の達成を目指す。最終年度であるR2年度においては、①多層積層薄膜構造を用いた熱活性化遅延蛍光分子から一重項励起子開裂分子への一重項エネルギー移動の実証、②高効率近赤外蛍光発光材料の開発と近赤外用熱活性化遅延蛍光分子の開発、③それを用いたSingletFission型有機EL素子の試作・評価を実施する計画である。①ではSingletFissionを発現するためには強い分子間相互作用が必要であることから従来のホスト・ゲスト系は適用できないと考えられるので、新しく多層積層構造を採用して光励起によるエネルギー移動の実証し、③の素子試作に向けた素子設計指針を得る。②ではすでにクルクミン誘導体が1µm以上の近赤外領域で良好な近赤外蛍光特性を示すことを見出しており、さらなる発光量子収率の向上を目指す。③では、①と②で得られた知見を融合し、最適な素子構造の探索および試作・評価を進める。これらの研究を進め、本研究計画の最終的な数値目標の達成を目指す。
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