2018 Fiscal Year Annual Research Report
肥料として農地に投入されたリンが土壌微細構造内で不均一に蓄積するメカニズムの解明
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18H02116
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山口 紀子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, ユニット長 (80345090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 洋平 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80436899)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | XANES / NMR / 微細構造 / 堆肥 / 化学肥料 |
Outline of Annual Research Achievements |
堆肥として土壌に投入されたリンは、化学肥料由来のリンに比べ、作物に利用されやすい傾向があることが知られている。2018年度は、堆肥、あるいは化学肥料として投入されたリンが、土壌バルクおよび土壌微細構造内の分布と形態を比較した。 牛ふん堆肥および過リン酸石灰(化学肥料)を施用してキャベツを栽培した畑から採取した土壌(黄色土)を樹脂で固化後切断・研磨し、土壌薄片を作成した。SPring-8 BL27SUにおいて10μmのX線ビームを用い、リン集積部位のP-K吸収端のXANES分析をおこなった。さらにEPMAにより土壌中の鉱物・有機物由来の元素である鉄、アルミニウム、ケイ素、硫黄、カルシウムの分布とリンの分布の関連を解析した。また、固体31PNMR分析、およびあいちシンクロトロン光センターBL6N1におけるP-K吸収端XANES分析により土壌バルク中の平均的なリンの形態を、土壌および堆肥のNaOH-EDTA抽出液のNMRスペクトルから有機態リンの種類と存在割合を解析した。 過リン酸石灰施用土壌と牛ふん堆肥施用土壌の全リン濃度には大きな差がなかったにもかかわらず、土壌微細構造内においては、リンの分布が異なっていた。過リン酸石灰施用土壌のリンは、土壌構造内全体に比較的均一に分布していた。一方、牛ふん堆肥施用土壌にはスポット状にリンの局在箇所が存在することが示された。堆肥施用土壌では、リンの局在と、鉄、アルミニウムの分布には関連がなく、リンは堆肥の混入により物理的に隔離されて存在している可能性が示唆された。化学肥料施用土壌と、堆肥連用土壌では、土壌中リンの平均的な化学形態が異なっており、堆肥連用土壌においてカルシウムとの結合態、有機態の存在割合が多い傾向がみとめられた。施用した堆肥からはフィチン酸が検出されたが、土壌抽出液からは検出されず、抽出リンはオルトリン酸が主体であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度予定していた試料の分析はすべて完了し、研究実績の概要に示した結果を得ることができた。本実験結果は、土壌肥料学会および国際学会で発表するとともに、論文を執筆する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の実験結果より、堆肥を連用した土壌では、物理的な隔離により、土壌鉱物へのリンの吸着が妨げられることにより、リンの作物への可給性が維持されていることが示された。吸着阻害の程度は、土壌のリン吸着能によっても異なる可能性がある。そこで、リン吸着能の高い黒ボク土においても同様の吸着阻害がおこっているかについても2018年度と同様の手法で、リンおよび鉱物・有機物由来元素の微細領域での分布と局所形態を分析することにより解析する。バルク土壌を用いた固体NMR分析、P-K吸収端(2145.5 eV)のXANES分析では、化学肥料連用土壌と堆肥連用土壌におけるリンの平均的な化学形態が異なることが示唆されたが、2つの手法による解析結果が必ずしも一致しなかった。リンの標準物質を用いて、スペクトルの同定方法を検討する必要がある。さらに、土壌中の化学形態の違いとリンの作物への可給性の関連をより詳細に評価するためには、化学肥料および堆肥連用土壌からのリンの溶出特性についても知見を得る必要がある。そのため、化学抽出法により土壌中リンをCa結合態、Al 結合態、Fe結合態に分画して評価し、XAFS法、NMR法により得られた結果と比較する。また、リンの過剰蓄積により、土壌中のリンの化学形態や溶出特性、作物可給性がどのように変化するかを検討するために、リンの蓄積程度の異なる農地土壌を採取し、形態分析、溶出特性の解析をおこなう。
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