2020 Fiscal Year Annual Research Report
肥料として農地に投入されたリンが土壌微細構造内で不均一に蓄積するメカニズムの解明
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18H02116
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
山口 紀子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, ユニット長 (80345090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 洋平 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80436899)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リン蓄積形態 / 局所分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
リンは、作物の収量と品質を左右する重要な養分元素であるが、肥料由来リンの大部分は土壌中の鉱物に強く吸着されてしまい、作物が利用しにくい形態で土壌に残留する。一方、堆肥など有機物資材として土壌に投入されたリンは、化学肥料由来のリンに比べ、作物による利用効率が高いことが知られている。2019年度までに、化学肥料由来のリンが、土壌鉱物に吸着した形態で土壌中に比較的一様に分布するのに対し、堆肥由来のリンの一部は、カルシウム塩として局在し、土壌に吸着せずに保持されていることが明らかになった。2020年度は、このようなリンの局在がおこる条件を明らかにするために、作付年数の異なる土壌におけるリンの化学形態と、土壌の微細領域における分布と形態を調査することを目的とした。 ハウス土壌(作付年数5年および30年)より採取したバルク土壌を用いて、土壌中の平均的なリンの形態を、化学抽出法、X線吸収スペクトル近傍構造(XANES)、NMR法により分析した。また、土壌薄片を作成し、マイクロビーム蛍光X線分析(SPring8 BL27SU)により10μmの分解能で元素マッピングをおこない、リンの集積部位のXANES分析から局所的なリンの形態を解析した。
バルク土壌を用いた分析より、作付年数の長い土壌では、作物が利用可能な可給態リン濃度が高く、一部のリンがカルシウム塩として存在していることが示された。栽培年数5年のイチゴハウス土壌より採取した土壌では、リンは比較的均一に分布しており、アルミニウム鉱物への吸着態として存在していた。一方、栽培年数30年の土壌には、リン濃度が高いホットスポットが点在していた。ホットスポット上におけるリンの形態は、アルミニウム鉱物吸着態が大部分であったが、一部のリンがカルシウム塩として集積していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バルク土壌を用いた平均的なリン化学形態の分析と土壌薄片上のマイクロスケールでのリンの分布と形態分析を相補的に用いた解析より、堆肥由来のリン、および長期間の施肥により土壌に蓄積したリンの形態の特徴が明らかになりつつある。カルシウム態のリンが堆肥連用土壌中で、ホットスポットを形成して蓄積していることは新しい知見であり、原著論文として公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
長期間の過剰な施肥の結果土壌に蓄積したカルシウム態のリンの形態を、さらに詳しく解析する。溶解度の低いアパタイトの蓄積を示唆する結果が得られていることから、カルシウム態リンの溶解性を評価する解析をおこなう。 XANES法は有機態リンを評価できない問題がある。これまで解析に用いてきた土壌は、無機態のリンが主体であったが、今後は土壌固相における有機態リンの存在についても明らかにしたい。そのため、化学処理をした土壌の31P固体NMRから有機態リンと無機態リンを分別して評価する方法についても検討する。
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Research Products
(3 results)