2018 Fiscal Year Annual Research Report
アスパラギン酸経路・鍵酵素の複合体形成機構および活性調節機構の構造学的解析
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18H02138
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
櫻庭 春彦 香川大学, 農学部, 教授 (90205823)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アスパラギン酸経路 / アスパラギン酸キナーゼ / ホモセリン脱水素酵素 / 超好熱菌 / Thermotoga maritima |
Outline of Annual Research Achievements |
必須アミノ酸であるスレオニン・メチオニンはアスパラギン酸経路により合成される。植物では、本経路の活性調節によって上記アミノ酸含量が決まるため、酵素改変による作物の栄養価改善が期待される。しかし、この経路の第一段階のアスパラギン酸キナーゼ(AK)と第三段階のホモセリン脱水素酵素(HseDH)の活性調節機構は不明な点が多い。この二つの酵素は融合して二機能型酵素(AK-HseDH)として機能する例が多いが、なぜ第二段階の酵素:アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素(AsaDH)が含まれないのか未だに謎となっている。本研究では、超好熱細菌Thermotoga maritimaに見出した安定性の高いこれら酵素の構造解析を通して、活性調節・複合体形成機構の解明を目指す。これにより、作物のアミノ酸栄養価を高める技術開発に繋がる研究基盤を構築する。 初年度は、大腸菌で生産させたT. maritima の二機能型AK-HseDHの精製方法を確立し、酵素化学的性質を明らかにした。興味深いことに本酵素のAKドメイン、HseDHドメイン、調節ドメインの並びは既知のAK-HseDHとは大きく異なり、HseDH、AK、調節ドメインの順に並んでいた。またシロイヌナズナAK-HseDHとは異なり、本酵素のHseDH活性(Hse酸化活性)はL-スレオニンによる阻害をほとんど受けないことが明らかとなった。これらの結果は、L-スレオニン依存性の阻害メカニズムがT. maritima とシロイヌナズナの酵素では大きく異なることを示している。アミノ酸配列の比較から,T. maritima AK-HseDHの調節ドメインの特徴的な配列が,本酵素のユニークなL-スレオニン感受性の要因であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸菌で生産させたT. maritima の二機能型AK-HseDHの精製方法を確立し、酵素化学的性質を明らかにできた。AK-HseDHの良質な結晶は、まだ得られていないが、AK-HseDHとAsaDHの共存下での基質・生成物測定系を確立し、アスパラギン酸、ATP、NADPHからのホモセリン、ADP、NADPの生成をHPLCにより検出した。その結果、NADPH 2分子の消費に伴い、ホモセリン 1分子が生成しており、酵素間で基質がスムースに受け渡しされていることが判明した。 細胞内の代謝経路で、ある酵素により作られた物質がどのように次の酵素に渡されるのかはまだよくわかっていない。連続的な代謝反応を触媒する複数の酵素が、反応中間体を外部にもらさず次々と受け渡すメカニズム(チャネリング)の研究は世界的にまだ始まったばかりである。T. maritimaのAK-HseDHは第一段階と第三段階の酵素の融合酵素であり、代謝が進行するには第二段階のAsaDHの存在が必須である。さらに反応中間体が非常に不安定な物質であるため、今回三つの酵素間でスムースな基質転移が示唆されたことは、大きな成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
・大腸菌で生産させたT. maritima の二機能型AK-HseDHの精製方法を確立し、酵素化学的性質を明らかにしたので、本酵素の結晶化条件のスクリーニングを行う。また、大腸菌で生産させたT. maritimaのAsaDHを精製方法を確立し、結晶化条件のスクリーニングを行う。さらに精製したAK-HseDHとAsaDHを混合し、共結晶化を試みる。AK-HseDH、AsaDH単独、およびAK-HseDH/AsaDH複合体の結晶構造を解析する。これらの構造を比較することで複合体形成様式を明らかにする。 ・AK-HseDHまたはAK-HseDH/AsaDH複合体とスレオニンとの共結晶化を行い、これらが結合した構造を解析し、結合様式を明らかにする。すでに構造解析に成功しているP. horikoshii HseDHはスレオニン非感受性であるため、構造比較によりスレオニンによる阻害メカニズムを明らかにする。これに基づき、阻害を解除した変異体酵素の作成を試みる。 ・T. maritimaには、二機能型AK-HseDH以外に単一機能型AKをコードすると考えられる遺伝子が存在する。この遺伝子の大腸菌における発現系を構築し、産物のスレオニン、メチオニンに対する感受性を調べる。この酵素の構造解析を行い、上記AK-HseDHの構造と比較することにより感受性・非感受性の違いを明らかにする。
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Research Products
(9 results)