2019 Fiscal Year Annual Research Report
オミックス解析を援用したサフラン薬効成分の生合成促進のための生育制御法解明
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18H02303
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
伊藤 博通 神戸大学, 農学研究科, 教授 (00258063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇野 雄一 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (90304120)
黒木 信一郎 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (00420505)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | サフラン / 柱頭 / 子球肥大 / クロシン / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
開花誘導:柱頭内薬効成分であるクロシンの生合成に関する光照射応答の機構解明のためにクロシン生合成に関するトランスクリプトーム解析を行った。昨年度と同様にクロシン生合成の鍵遺伝子であるCCD2遺伝子に注目した。昨年度は柱頭サンプル採取時期がCCD2遺伝子発現ピーク期を過ぎていた可能性とCCD2遺伝子が光照射に応答しない可能性が考えられた。今年度は柱頭採取時期を早め、かつ光照射区の明期時間を長くして暗黒区と発現量を解析した。2試験区間の発現量やクロシン濃度と柱頭乾物重の積であるクロシン収量に有意差が認められなかった。クロシン生合成に関わる他の10種類の遺伝子についても発現量に有意差が認められなかった。人工光源の光量ではこれら遺伝子発現に影響しない可能性が示唆された。 子球育成:昨年度は28日経過する度に2℃気温を上昇させる昇温区と低温一定区を設けて子球育成実験を行ったが、昇温区で子球肥大促進を実現できなかった。子球が小さい段階で昇温させたことがシンク強度低下の原因であると考えられた。今年度は子球直径を指標に肥大速度が最大に達した時点で昇温する昇温区を設け、低温区と比較した。昇温区は低温区と比較して栽培期間が短縮化し、収穫時子球重量は有意に小さかったが、開花保証の目安となる20 g以上になった。昨年度と同様なトランスクリプトーム解析によりスクロース合成・分解関連遺伝子、デンプン合成・分解関連遺伝子の発現を調べた。昇温によりスクロース分解およびデンプン合成関連遺伝子の発現が減少する傾向は昨年度と同様であったが、多くの場合で昇温区と低温区の間に発現量の差異は本年度の方が小さくなっていた。このことから肥大速度が最大になる時点で昇温させることにより、スクロース濃度上昇による細胞分化促進とデンプン合成の抑制が抑えられ子球肥大の期間短縮と促進が実現できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
子球育成実験の栽培期間が当初予定よりもかなり長期化し、全ての測定結果が得られる時期が遅くなっている。 サフランの生育は花芽形成期、開花誘導期、子球育成期の3期間に分けられ、開花期に香辛料や薬用部位となる柱頭を、また子球育成期に次世代の母球となる子球を1年に1回収穫する。人工環境下で効率よく高品質な柱頭や子球を収穫するための開花誘導期および子球育成期の最適環境条件を解明することが目的である。 開花誘導:柱頭内薬効成分であるクロシンの生合成に最適な環境を解明するためにクロシン生合成の光応答に関するトランスクリプトーム解析を進めてきた。開花誘導期の光照射の有無によりクロシン生合成関連遺伝子の発現に有意差が認められなかった。 子球育成:子球が肥大するためには子球が光合成産物を取り込む能力であるシンク強度が低下せず持続することが必要である。シンク強度は葉からの炭素供給量と根からの窒素吸収量の比、C/N比が適正な範囲にあることにより持続するという仮説を立てている。また、可溶性糖であるヘキソースとスクロースの比がシンク強度に影響することがわかっていた。これまで地上部気温は栽培期間を通して一定値に固定していた。低温(15.0/17.0℃、明期/暗期)条件では肥大が促進されるが高温(18.0/15.1℃)では子球重量が小さくなっていた。シンク強度以上の光合成産物が供給されるとシンク強度が低下すると予想された。そこで成長と共に気温を上昇させることによりシンク強度を持続させることが可能であると考えた。本年度は肥大速度が最大になる時点で昇温させる昇温区を設けて子球育成実験を行い、トランスクリプトーム解析を行った。昇温区設定によりスクロース濃度上昇による細胞分化促進とデンプン合成の抑制が抑えられ子球肥大の期間短縮と促進が実現できたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
開花誘導:光照射がクロシン生合成関連遺伝子の発現に影響を与える因子であると仮定して調査を進めたが、現状の設備で実現できる光強度よりも大きい光強度を設定しないと遺伝子発現の差異を検出することが難しいことが分かったのでこの調査は中止する。 子球育成:来年度も低温区と昇温区の2試験区における子球育成実験を行う。肥大速度測定の指標に子球直径を採用したが、来年度は子球重量を採用する。昇温区については子球重量の増大速度が最大となる時点で気温を上昇させることにする。子球育成期間内に一定間隔で球茎を収穫し、トランスクリプトーム解析を行う。スクロース合成・分解関連遺伝子、デンプン合成・分解関連遺伝子、クロロフィルタンパク質複合体合成関連遺伝子およびDNA複製関連遺伝子の発現を重点的に解析し、子球肥大を促進あるいは抑制する機構を解明する。 子球内成分濃度計測:トランスクリプトーム解析によりスクロース濃度の変動が子球肥大に大きく影響することが予想されたので、子球内のスクロース濃度の経日変化を測定する。測定方法はHPLCを予定している。また、子球内のスクロース濃度を非破壊測定する手法の開発も試みる。
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Research Products
(19 results)