2018 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍内の代謝微小環境が放射線耐性を誘導するメカニズムの解析
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18H02759
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小野寺 康仁 北海道大学, 医学研究院, 講師 (90435561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
及川 司 北海道大学, 医学研究院, 講師 (20457055)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 代謝協調 / 共培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、異なる代謝状態の細胞が共存している場合に起こる放射線耐性について、それに伴う表現型の変化や背景にある分子メカニズムの解析を試みた。また、解析のための実験系について、培養条件の最適化や、既存の装置を用いた場合の様々な問題点を解決するため、共培養専用の装置の作製を試みた。 まず始めに、主眼とするグルコースの濃度調整をより厳密にするため、培養条件の最適化を行った。これまでの培養条件では、培地中のグルコース濃度が最低でも約0.4mMとなっており、細胞のグルコース消費速度から計算してグルコース枯渇に達するまでには半日程度要すると推定された。これは基礎培地に添加するウシ胎児血清に由来するものであり、メーカーやロットが違ってもほぼ同等であると推測された。対策として、血清を透析処理済みのものに変更することで、通常グルコース濃度における生存性には影響せず、グルコース濃度を約15μMまで低下させることが可能であることを確認した。 このような条件においてグルコース飢餓細胞と充足細胞とを共培養して代謝協調を行わせて、表現型の観察や遺伝子発現変化の解析を行った。その結果、薬剤や放射線に対する耐性獲得の原因となり得る遺伝子等が複数同定され、それぞれの細胞で起こっている代謝変化についても、遺伝子発現制御の観点から推測することができた。現在、タンパク質発現の解析など、より詳細な検討を進めている。 細胞表現型について、顕微鏡観察に基づく解析(形態や運動性の変化の解析、蛍光マーカー等を用いた解析など)を行う場合、ボイデンチャンバーに基づく既存の共培養装置ではインサート上の細胞の観察が非常に困難であった。これを解決するためのシリコン製の専用培養装置を作製し、代謝協調の成立下で高解像度観察が可能であることを確認した。より詳細な解析を次年度以降に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表現型の解析については、上述のように培養装置の問題点から若干の遅れが生じているが、予備的なデータは既に得られている。本年度に完了した高解像度観察条件において、より質の高いデータを得ることができるものと考えている。最適化した培養条件を用いて、遺伝子発現の解析については既に完了しており、より詳細な解析を行うに値する興味深い遺伝子発現の変化を多数捉えることができた。治療耐性との相関をよく説明するもののほか、関連性がこれまで知られていない遺伝子も多く含まれている。また、代謝ストレスへの応答という観点から想定される遺伝子発現変化も確認できており、狙い通りの実験条件が確立できていることも裏付けられている。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に確立した実験条件および培養装置を用いて、既に得られているデータに基づき、表現型の解析を引き続き行う。特に、顕微鏡による高解像度解析が可能となったことをいかして、代謝ストレスや細胞死に関連する因子、たとえばミトコンドリアの動態やオートファジー等にも注目し、これらのライブ観察による経時的な解析を行う。また、遺伝子発現解析と関連させながら代謝産物等の網羅的解析を行い、代謝協調やそれに伴う性質変化の原因となり得る物質の同定も進めていく。既に得られているデータに基づき、特に注目すべき経路をいくつか絞り込み、より詳細な解析を行う。治療耐性への関与が示唆された遺伝子については、プラスミドベクター等の導入により過剰発現または発現抑制を行い、耐性への影響を観察する。
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