2018 Fiscal Year Annual Research Report
フィギュアスケートの多回転ジャンプの成否を決定するものは何か
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18H03159
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
桜井 伸二 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (20144173)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジャンプ高 / 動作解析 / 滞空時間 / 関節角度変化 / DLT法 / 角運動量 |
Outline of Annual Research Achievements |
競技歴12年でバッジテスト7級の男子フィギュアスケート選手(21歳、身長163cm、体重51.5kg)1名を対象とした。シャッター同期された2台の高速度ビデオカメラ(120fps)を用いて、ジャンプ動作を撮影した。2台のカメラの光軸間角度は約90度であった。 実施したジャンプは、フィギュアスケート競技で行われる全6種のジャンプで、2.5回転のダブルアクセル、および3回転のトーループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツである。ジャンプの難易度はこの順に高くなる。 DLT法を用いて身体各部の3次元座標変化を求めた。両脚の股関節、膝関節、足関節の角度変化、身体重心位置、さらに肩および腰の水平面内での回転角度を求めた。 その結果、ジャンプの難易度とは関係なく、トーループ、フリップ、ルッツという3種のトージャンプの跳躍高が高く、アクセル、サルコウ、ループというエッジジャンプの跳躍高が低いという傾向が認められた。また踏み切り脚の下肢3関節の角度変化に注目すると、トージャンプでは最大屈曲が保たれた状態からトーを突くと同時に膝関節と足関節がほぼ同時に伸展し、股関節の伸展がそれにやや遅れて続くことがわかった。それに対してエッジジャンプでは3関節の伸展のタイミングがほぼ同期している傾向が認められた。これら2.5回転および3回転の6種のジャンプにおいては、空中にある間の水平面内での身体の回転は2.2~2.3回転程度であった。すなわち13~25%程度の回転は踏み切り動作中および着氷後に行われていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験を行う予定にしていた大学所有のサブリンク(40m×20m)の閉鎖により、メインリンク(60m×30m)で全ての実験を行うことになった。そのため、動作分析のためのキャリブレーションをはじめ、データ取得の方法について再検討した。 高速度ビデオカメラを用いて撮影する場合の、リンク上でのキャリブレーションについてまず検討した。測量器具(トータルステーション)を用いた方法により、誤差と所要時間を縮小できることがわかった。光学式反射マーカーを用いたモーションキャプチャシステムを用いる場合には、カメラから対象までの距離が長くなることに伴い、高精度のデータを得るためにカメラ位置の調整とリンク上へのカメラケーブルの敷設が必要なことがわかった。インソール型の足圧測定システムについては、同時に用いる高速度カメラとの同期のためのLEDランプの取り付け、さらに氷上での転倒の際の機器の破損を防ぐためのスイッチ部の位置変更や緩衝ケースの調整を行った。 ここまでに約8か月を要し、想定したより少し時間はかかった。しかし、実験方法について十分な検討ができ、今後の実験が円滑に行える準備が整ったので、結果的には良かった。 その後は特に光学的方法(高速度ビデオカメラ、モーションキャプチャ)を用いて実際に高難度のジャンプについてデータ取得を行い、分析を行って上記研究実績の概要のような結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目的は、3回転あるいは4回転という多回転ジャンプを成功させるための技術を明らかにし、選手の技術向上に資する提言を得ることである。ここまでの検討の結果、6種類のジャンプによってその戦略は異なることが予想された。すなわち、離氷から着氷までの間に同じ回転数を完遂させるにしても、高いジャンプ高で滞空時間をかせぐことによるものと、滞空時間は短くても回転スピードを上げることによるもの、あるいはその中間のものなどが存在していると考えられる。さらに選手によっても同じように戦略は異なっていることが考えられる。 そこで、分析対象者の範囲を広げ、また対象者数を増やすことにする。男女の選手両方を対象とし、しかもそれぞれ複数人の分析を行う。 次に、6種のジャンプのそれぞれについて高いジャンプ高を得るために適切な踏切動作を検討する。ルッツとフリップは左足での後ろ向き滑走から右足のトーを突いて離氷し、回転後に右足で着氷してから後ろ向きで滑走するという点では全く同じ経過をたどるジャンプである。踏み切り時の左足がインエッジ(フリップ)かアウトエッジ(ルッツ)かだけが異なっている。ところがこの両者でも踏み切り脚下肢3関節の伸展のタイミングがわずかに異なっている傾向が認められた。そのようなわずかな違いを明らかにするためには、高い分析精度が保証されるモーションキャプチャシステムの使用を中心として用いていく。それによって身体の角運動量も精度良く測定することが可能になる。 さらにインソール型足圧測定システムを用いて、特にアプローチ中と踏み切り動作中のそれぞれで、身体に反時計回り方向の大きな角運動量を発生させる方法について検討していく。
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