2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18H03574
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Research Institution | Nara National Museum |
Principal Investigator |
松本 伸之 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 館長 (30229562)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 士郎 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 室長 (20249915)
小泉 恵英 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部, 部長 (40205315)
伊藤 信二 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 課長 (00443622)
沖松 健次郎 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (30332133)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (60332136)
西木 政統 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 研究員 (90740499)
大原 嘉豊 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部保存修理指導室, 室長 (90324699)
斎木 涼子 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (90530634)
安藤 香織 公益財団法人徳川黎明会, 徳川美術館, 学芸員 (20555031)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高雄曼荼羅 / 空海 / 密教美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本に密教をもたらした空海は、密教の理解には絵画などの造形作品が必要であると述べ、多くの造形作品を中国から請来した。帰国後は造形作品の製作に関わり、高雄曼荼羅とよばれる請来した両界曼荼羅を金泥と銀泥で模写した京都・神護寺の両界曼荼羅はその代表である。京都・東寺の講堂諸像も空海の構想、指導の下に造像された。本研究は、空海に関わる作品と、空海の造形観に関する研究である。 2019年度は東京国立博物館で開催された特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」(会期 2019年3月26日‐6月2日)に出品された作品調査を中心に研究を行った。東寺は、空海が密教修行の拠点として整備した寺院で、中国から請来した真言宗祖師の肖像、密教法具、空海の中国請来品目録である御請来目録、空海直筆の書である風信帖、空海指導の下に製作が行われた講堂諸像が伝わり、ほかに平安鎌倉時代の密教美術の名品も残される。特別展では東寺に伝わる密教美術の名品の大部分が出品された。本研究ではそれらの作品調査を実施するとともに、写真撮影を行い今後の研究資料の充実を図った。また、彫刻作品の一部についてはX線断層写真(CT)の撮影を実施した。その分析には時間を要するが、技法や像内納入品などについて新たな知見を得ている。 中国四川省における彫刻作品を中心とした作品調査も実施した。日本には多くの密教の造形作品が残るが、実は中国には多くない。そのなかで四川省は密教作品が残っており、密教の特徴である明王像も含まれる。また、東寺には中国製の兜跋毘沙門天という特異な毘沙門天像が伝わるが、当該地域には兜跋毘沙門天像が多く残る。調査旅行ではそれらの作品調査、写真撮影を行った。 なお、2018年度に実施予定であったが2019年度に繰越した、空海請来の両界曼荼羅の系統で4世目の模写作品の大型スキャナによる高精細画像、講堂諸像の高精細画像の撮影も実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
空海と直接関わる造形作品は多くはないが、本研究ではこれまでに空海が請来した真言七祖像(真言宗祖師の肖像5幅と、空海が帰国後に描かせた2幅)と密教法具、空海の直筆の書である風信帖、空海の指導の下に製作した東寺講堂諸像21体(うち6体は後世に補われたもの)の作品調査を実施した。他にも9世紀に描かれた現存最古の彩色の両界曼荼羅をはじめとした平安、鎌倉時代の密教美術、空海の孫弟子の恵運が中国から請来した五大虚空蔵菩薩像などの調査、大型スキャナや1億画素の高精細カメラによる撮影を実施するなど順調に研究を進めている。 海外調査は中国四川省で密教彫像を中心とした調査を実施したほか、中国北京の国家博物館での作品調査の機会もあった。それらの作品は空海、あるいは空海関連作品と直接かかわるものではないが、日本の密教美術との比較対象として重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
空海の造形観を考察する本研究にとって、空海自身の作品や空海が中国から請来した作品、空海が製作に関わった作品の調査が重要である。未調査の空海請来品は和歌山・金剛峰寺の枕本尊とよばれる仏龕がある。空海自身の作品としては、書家で知られるように筆跡が残されており、京都・醍醐寺の狸毛筆奉献表などがある。空海が関わった作品は東寺所蔵作品のほか、本研究の起点ともいえる京都・神護寺の高雄曼荼羅がある。今後それらの作品を中心に、関連する作品、ひろく密教作品の調査を実施したい。高雄曼荼羅は現在修理中であるが、修理によって画面が鮮明になったという情報を得ており、所蔵者、修理業者などと調整がつけば調査を実施したい。 海外調査旅行は、インド、中国を予定している。密教はインドで生まれて中国に伝わった。日本へは、空海やその後の僧侶たちが中国に留学して密教を学び、帰国して普及に努めた。日本の密教は、中国留学僧によって成立したもので、中国における作品調査は重要である。空海の造形作品を重視する考えも、実は空海の師である恵果の教えによるものである。また、空海が製作に関わった高雄曼荼羅や東寺講堂諸像にはインドの造形表現が色濃く見られる。空海はインドを重視したことが彼の言葉からも知られ、造形作品にも反映している可能性があり、インドへの調査旅行は重要である。ただし、現在の新型コロナウィルスの感染状況からすると海外調査旅行は実施できない可能性があるので、その場合、国内作品の調査を実施する。
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