2019 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡電子構造解析に基づく蓄電池カソード配位子電荷移動の安定化
Project/Area Number |
18H03929
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内本 喜晴 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50193909)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (10222259)
折笠 有基 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (20589733)
大石 昌嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30593587)
田中 優実 東京理科大学, 工学部工業化学科, 准教授 (00436619)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | リチウムイオン二次電池 / 正極活物質 / 電子構造 / オペランド解析 / 軟X線吸収分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
次世代リチウムイオン二次電池の高容量正極材料として研究されているリチウム過剰系金属酸化物材料は、反応に寄与できるリチウムイオン量が多くなることから、従来の電極材料よりも高容量特性を示すことが期待されている。リチウム過剰系材料においては、脱離するリチウムイオン量が、金属カチオンの酸化還元反応のみでは説明できず、酸化物イオンが電荷補償に寄与すると推測されている。従って、この酸化物イオンの可逆的な酸化還元が実現できればリチウムイオン二次電池正極材料の高容量化が可能となる。本博士論文では、種々のリチウム過剰系金属酸化物材料の電子状態を電池作動条件下(オペランド)X線吸収分光にて体系的に解析することで、リチウムイオンの脱離による酸化物イオンの電子構造変化と電気化学特性の関係について明らかにし、その知見を用いて、新規な高容量材料の開発を行っている。 Li過剰系正極材料の電子構造制御に着目した。酸素の電荷補償機構を明らかにするためには、電池作動条件下での酸素の電子状態を観測することが極めて重要であるため、充電時における酸素の電子構造を直接観察する手法としてオペランド軟X線吸収分光を新たに開発した。共有結合性とイオン結合性が異なる4つの材料Li2MnO3、Li2RuO3、Li1.2Ti0.4Mn0.4O2、Li1.2Ti0.4Fe0.4O2をモデル材料として選択し、オペランド軟X線吸収分光法と硬X線吸収分光法を適用することで、これらの材料の充電時における酸素の電子構造を直接観察した。充放電測定の結果から、4つのLi過剰系正極材料は酸素2p軌道上のホールが安定なグループ(Li2RuO3とLi1.2Ti0.4Mn0.4O2)と、酸素2p軌道上のホールが不安定なグループ(Li2MnO3とLi1.2Ti0.4Fe0.4O2)に分類されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
化学結合の性質が異なるリチウム過剰電極材料に対して、オペランド軟/硬X線吸収分光法を用いることで酸素の電荷補償機構を系統的に分析している。これまで、3d軌道に電子をもたないチタン4価を用いたリチウム過剰系正極材料がLi1.2Ti0.4Mn0.4O2が300 mAh/gを超える可逆容量を示すことが報告されている。この材料系においては酸素上に局在化したホールが形成することによって電荷補償がなされていると推測されるが、何故、共有結合性の強い4d遷移金属を用いない材料で局在化したホールが安定に存在するのか不明であり、更なる性能向上を行う際に問題となっている。この問題を解決するためには、充放電中の正極活物質中の酸素の電子構造を直接測定することが必要となる。充放電中の酸素の電子構造変化を、オペランドX線吸収分光法により計測する手法を開発した。共有結合性とイオン結合性が異なる4つの材料Li2MnO3、Li2RuO3、Li1.2Ti0.4Mn0.4O2、Li1.2Ti0.4Fe0.4O2をモデル材料として選択し、オペランド軟X線吸収分光法を適用することで、これらの材料の充電時における酸素の電子構造を直接観察した。これにより、金属と酸素間のイオン結合性および共有結合性が酸化物イオンの酸化を安定させるために重要であり、高い共有結合性を有する材料か、高いイオン結合性を有する材料が、酸素の2p軌道のホールを安定化させることを明らかにした。また、イオン結合性の高い材料の場合、孤立した酸素の2p軌道のホールを安定化させるために、d電子をもたない4価のチタンの導入が有効であることも見出した。このように、酸素の電子構造の制御で、アニオンレドックスの可逆性が決定されることを明らかにしたことは、高容量材料設計指針を見出したものであり、高く評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで確立した材料設計指針に基づき、高容量正極材料の開発を行う。特に、高重量エネルギー密度電池の開発に焦点を当てる。アニオンレドックスの発現を伴うLi2O正極が実現できれば、最も高い重量エネルギー密度をもつ電池の正極となる。電子伝導性を発現させ、かつ、高い3d遷移金属-酸素の共有結合性を導入するために、CoをドープしたLi2O正極に着目する。この材料は高い理論容量を示すが、高容量で作動すると、酸素の脱離に伴う不可逆容量の発生が問題となっている。窒化物イオンを正極材料中にドープすることで酸素2p軌道上のホールの安定化を試みる。 キャラクタリゼーションは、これまで開発してきた充放電中の酸素の電子構造変化を、オペランドX線吸収分光法により計測する手法を適用する。酸素のK吸収端は、エネルギーが低いために空気により散乱される。そこで、放射光X線を超高真空中パスに導入し、ナノメートルオーダーの窓剤で電気化学セルと仕切ることで、問題の解決に成功している。
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Research Products
(3 results)