2020 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡電子構造解析に基づく蓄電池カソード配位子電荷移動の安定化
Project/Area Number |
18H03929
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内本 喜晴 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50193909)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 優実 東京理科大学, 工学部工業化学科, 准教授 (00436619)
藤井 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (10222259)
折笠 有基 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (20589733)
大石 昌嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30593587)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | リチウムイオン二次電池 / 電子構造 / 正極活物質 / 高容量 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化やエネルギー資源の枯渇といったグローバルな問題を解決するための手段の一つとして、二酸化炭素を放出しない、電気自動車等のグリーンモビリティが注目されている。長い距離を走行可能な電気自動車の開発には、現存する二次電池よりもさらにエネルギー密度の高い二次電池が必要となる。現在、最もエネルギー密度の大きな電池はリチウムイオン二次電池である。電池のエネルギー密度は、電池の電圧と容量の積で与えられるため、エネルギー密度を向上させるためには、高電位で作動可能な材料を開発するか、容量の大きな材料を開発する必要がある。 昨年度の結果を基に、広いバンド構造を有する4d遷移金属Ruを用いることによって固溶体正極材料の電子状態制御を行い、Mnと異なりRuは4価/5価のレドックス反応によって電荷補償元素となりうるため、固溶体正極材料にRuを用いることで充放電過程における遷移金属レドックスの寄与を拡大させるとともに、充電反応時の酸素発生を抑制することに成功した。リチウム過剰系岩塩型正極材料Li1.2Ti0.4Mn0.4O2の酸化物イオンの一部を、窒化物イオンで置換することによる新しい手法で電子状態制御を試みた。本研究で合成した窒素置換正極材料Li1.2Ti0.4Mn0.4O1.85N0.10は、未置換材料Li1.2Ti0.4Mn0.4O2に比べて充放電容量が増加し、レート特性の向上も確認された。X線吸収分光法を用いた初回充電過程における電子構造解析の結果から、窒素置換正極材料は初期状態においてMnが部分的に3価よりも還元されていることおよび、未置換材料に比べて遷移金属レドックスの寄与が増大していることが示された。また、窒素置換によって、酸素2p軌道へのホール生成反応がより低電位で進行するようになり、同じカットオフ電位においてアニオンの電荷補償による充放電容量の増加も明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来酸化物を中心に研究開発されてきた、リチウム過剰系材料の分野において、酸化物イオンの一部を窒化物イオンに置換することによる効果を検討した。リチウム過剰系材料の中でも最も高い容量が報告されているLi1.2Ti0.4Mn0.4O2を取り上げ、部分窒化を試みている。窒化物イオンと酸化物イオンのイオン半径が比較的近いこと、および窒素2p軌道の準位が酸素2p軌道に比べて高いことから、窒素置換によって、酸素2p軌道の安定化が実現できると考えられる。その結果、窒素の2p軌道の効果により、酸素の2p軌道へのホールの生成電位が卑にシフトし、高容量が発現した。また、歪みが小さくなることにより、レート特性が向上した。本研究で開発した材料は、現在最も高容量を示すリチウムイオン二次電池正極材料のひとつである。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、次世代二次電池の電極材料特性へ大きく影響すると考えられる正極材料の結晶構造や電子構造の変化に着眼した。結晶構造解析の結果からは、材料の結晶構造の差異によって異なる拡散経路を通ることを示し、材料中の拡散に関する基礎的な知見を獲得した。電子構造解析の結果からは、高容量および高レート特性を発現する電子状態制御の手法を提示した。本研究で実証した次世代二次電池材料の結晶構造および電子構造解析によって得られた知見は、新規二次電池材料設計に対し有用な指針を提示するものであり、将来的な蓄電池の高エネルギー密度電池の実用化に向けて大きく貢献することが期待できるものである。今後、アニオンとして酸化物イオンのみならず窒化物イオン等を含有する複合アニオン化合物を対象に、さらなる高容量化を試みる。
|