2018 Fiscal Year Annual Research Report
流動性足場・曲面足場設計に基づくオルガノイドの精密誘導技術の開発
Project/Area Number |
18H04167
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
木戸秋 悟 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (10336018)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オルガノイド / 動的粘弾性 / 流動性足場 / 曲面足場 / メカノバイオマテリアル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、細胞の三次元自己組織化を誘導する足場マトリックスの力学物性・形状特性の設計により、 オルガノイドを再現よく精密・高効率に作製する学理と技術の確立を目的とする。オルガノイドは培養環境下で作製し得る小臓器であり、臓器工学・薬物評価・再生医療等分野においても近年大きな注目を集める研究対象である。現在、オルガノイドの作製の多くは、天然の細胞外マトリックス抽出物であるマトリゲルを用いた培養法によっているが、その機構的要因は必ずしも明確ではなく、オルガノイド形成の再現性や設計自由度、汎用性には制約が大きい。いかなる培養環境がオルガノイド形成に対する最適条件を与えるか?本研究では申請者が独自に開発してきた培養環境力学場の設計技術に基づき、足場材料の流動性および曲面性の二問題の検証と応用に取り組む。 初年度は、まず「流動性足場の粘弾性特性設計によるオルガノイド形成」について研究を実施した。オルガノイド形成のための培養足場に要求される設計変数としての、足場の粘弾性を定量的に把握するために、従来用いられているマトリゲルのモデル系として多糖類水溶液のゾルゲル転移系に着目し、その粘弾性特性とオルガノイド形成効率の相関を調べた。具体的には多糖類としてジェランガムを用い、その濃度を変えた水溶液ゾルの動的粘弾性を測定したところ、0.1%と0.2%の条件の間でゲルの降伏応力が30から100Paに増加することを確認した。さらにこれらの二条件について間葉系幹細胞と血管内皮細胞の分散共培養を行うと、特に後者の条件で、自発的に間葉系幹細胞の間葉凝縮とその周囲に接着した血管内皮細胞が形成するオルガノイド様構造の成長が生じることを見出した。オルガノイド形成のためには、足場ゲルの最表層が、細胞集団の牽引力により降伏変形を起こし、流動性を得ることが重要である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本初年度は、当初計画に掲げた第一番目の研究項目である「流動性足場の粘弾性特性設計によるオルガノイド形成」について研究を実施した。オルガノイド形成のための培養足場に要求される設計変数としての粘弾性特性の影響については、以前武部らが弾性率の異なるPAAmゲル上にマトリゲルを修飾した系にて報告しているが、マトリゲルとPAAmゲルの二層間接合系におけるマトリゲル自体の粘弾性特性の寄与が不明であることにより、細胞集合現象に対する足場の粘弾性特性の定量的基準に対する原理的理解は確立していない。本年度はまずこの点を詳細に把握するため、表層とバルクの同一組成物質からなる一層のゾルーゲル基材として、多糖類ジェランガム水溶液を選択した。基材の粘弾性物性の解析のため、本研究費で導入した動的粘弾性装置を活用し、流動測定、ひずみ分散、周波数分散の各測定を行い、濃度を変えた条件下でのジェランガム水溶液のゾルーゲル状態遷移条件と、特にゲルからゾルへの転移条件、すなわち降伏応力の決定を行なった。その結果、ジェランガム水溶液は0.1%と0.2%の条件の間でゲルの降伏応力が30から100Paに増加することを確認した。さらにこれらの二条件について間葉系幹細胞と血管内皮細胞の分散共培養を行ったところ、前者の条件では細胞が全てゾル溶液に沈みこむのみだが、0.2%では自発的に間葉系幹細胞の間葉凝縮とその周囲に血管内皮細胞が接着したオルガノイド様構造の成長が生じることを見出した。この現象は、細胞集合のためには基材は弾性的であることが必要である一方で、その基材対する細胞接着牽引力がゲル最表層の降伏変形を引き起こし、表層のみが微視的に流動性を獲得することの必要性を示唆している。オルガノイド形成のための足場ゲルの最表層の流動性確保と、その定量的設計基準に関する手がかりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の結果として、間葉系幹細胞と血管内皮細胞の共培養系において、上皮間葉位置関係を確保した細胞集塊の自発的形成を導く培養基材の粘弾性条件を把握した。”培養基材ゲルの最表層領域の降伏変形流動性”の設計がその核心であることを見出した。この知見は、異種細胞の集塊を生成することの重要な条件であるが、この集塊がいかなる性状の細胞集団であるのか、オルガノイドと確定できるのか、についてはここからの課題である。そこで今後の研究の推進においては、上手法・上原理にて生成した細胞集塊の詳細な特性解析を進める。具体的には、三次元観察による血管構造の形成の確認、血管周囲細胞のマーカー発現、集塊中の間葉系幹細胞の分化・未分化特性の把握を行う。その結果を踏まえて、間葉系幹細胞の分化・未分化性制御に対して、当初より計画しているセルロースナノファイバーの分散固相足場を導入した流動性足場の効果の検証に移る予定である。また、上の原理の一般性・普遍性を評価するため、ジェランガムとは異なる別の合成高分子ゾルーゲル基材についてもオルガノイド形成を誘導可能かどうか、候補高分子の探索にも着手する。一方、当初予定に掲げた研究項目2「培養環境の曲面設計によるオルガノイド形成」に対しては、まずは単純なカップ曲面ゲルをジェランガムにて作製し、上の原理が同様に働くかどうかを検証していく。これらの取り組みの全ての根底には、”培養基材ゲルの最表層領域の降伏変形流動性”という原理が潜んでいるものと推察しているが、この推察を定量的に検証するためにゲル最表面における細胞の接着牽引力顕微解析も開始する。
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Research Products
(2 results)