2019 Fiscal Year Annual Research Report
Cross-Sectional Review of Intellectual Property Laws from the Viewpoint of Fostering and Securing Public Domain
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18H05216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 善之 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (20197586)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 一郎 北海道大学, 法学研究科, 教授 (10402140)
HAZUCHA B 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30452808)
山根 崇邦 同志社大学, 法学部, 教授 (70580744)
鈴木 將文 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (90345835)
吉田 広志 北海道大学, 法学研究科, 教授 (70360881)
前田 健 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (80456095)
駒田 泰土 上智大学, 法学部, 教授 (30334288)
上野 達弘 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (80338574)
奥邨 弘司 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (60386802)
金子 敏哉 明治大学, 法学部, 専任准教授 (20548250)
村井 麻衣子 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (80375518)
宮脇 正晴 立命館大学, 法学部, 教授 (70368017)
平澤 卓人 北海道大学, 法学研究科, センター研究員 (90815185)
小嶋 崇弘 駒澤大学, 法学部, 准教授 (80722264)
Rademacher C 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (30609772)
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | 知的財産 / パブリック・ドメイン / 特許 / 著作権 / 商標 |
Outline of Annual Research Achievements |
知的財産法の世界ではパブリック・ドメインとの境界線上での紛争が多発している。その背景には、製造・測定技術やバイオ技術の進歩に伴い、個別のユーザーのニーズにピンポイントに焦点を当てたイノヴェイションが可能となっていたり、インターネットとAIにより公知の情報の集積と解析が飛躍的に容易となっておりそこに付加価値を見出すサービスが創出されたりという側面があり、一概に否定的に評価すべきでもなく、単線的な処理を許さない。ところが、従来の知的財産法学の世界では、知的創作物や創作者概念と異なり、パブリック・ドメインは知的財産権の対象ではないものとして消極的に定義されるに止まり、スポットライトが当てられることは稀であった。 しかし、知的財産法が創作を奨励し産業や文化の発展を目的とする以上、その究極の目標はパブリック・ドメインを豊かにし、人々にその利用を享受させるところにあるはずであり、知的創作物の創作者に対する権利はそれを実現する手段に過ぎないはずである。本研究は、このようなパブリック・ドメインを中心に置いた知的財産法に対するものの見方を軸に、いかにしてパブリック・ドメインを豊かにし、その利用を確保するのかという観点から各種の知的財産法の構築を目指している。 とりわけ今年度は、総論的研究につき、昨年度から引き続き、パブリック・ドメインの確保と、創作物の保護が対立した場合、前者を優先するという発想をパブリック・ドメイン・アプローチと名付け、後者を優先する創作物アプローチと対比するという対立軸を打ち出すととともに、そのような発想の相違が知的財産法の各種論点においてどのような帰結の差異をもたらすかという研究を続けた結果、次項に記すような内容の成果を公表するに至った。こうした本研究の成果は、パブリック・ドメイン研究会や知的財産法政策学研究その他の媒体を活用して社会に還元することに努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
① パブリック・ドメインの醸成と確保に関する理論の構築:既に本研究は、何故知的財産法の分野において、パブリック・ドメインに着目することが重要であるのかということを、知的財産法における効率性のみに依存した解決が困難であること、それが故に民主的正統性に依拠する必要があるにも拘わらず、少数派バイアスに陥る構造的危険性を抱えていること、それが故にバイアスに抗うメタファを用いるべきであることという論法により明確化することに成功した。 さらに本研究は、パブリック・ドメインの醸成とその確保という目標を実現する方策として、権利の成立と救済策の2つの場面を連動させるという方法論を提示することに成功している。今後は、知的財産法の総論ばかりでなく、特許法の総論、著作権法の総論等、個別領域の総論の構築が望まれるが、特許法においてはその骨格が出来上がっており、他の分野への応用を期待できる。 ② 各論の着実な成果:さらに各論では、本年度だけでも下記のような成果を上げている。 1)特許法:特許適格性要件、用途発明、特許の進歩性要件、先使用権、損害賠償、2)著作権法:AI創作物、著作権と表現の自由の関係、フェア・ユース、権利制限のメニューの選択、存続期間、3)商標法:表現の自由と商標、人の氏名、4)不正競争防止法:営業秘密、ビッグ・データ ③ 国内の知財法研究の底上げ:さらに本研究は、日本全国の知的財産法研究の向上ということも目標としている。東大と北大の知的財産法研究会等の本研究の各クラスターの発展がそれに寄与することはもちろんであるが、本研究の成果を長大な学術論文の掲載も可能な知的財産法政策学研究に掲載することも学界に裨益するところが大きい。そして、研究分担者所属の大学を巡回するパブリック・ドメイン研究会に開催地の周辺の研究者や実務家を集結させることにより、日本全体の知的財産法研究の水準の底上げを図っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果、何をどのように研究するのかということの方向性が明確化されており、たとえば、効率性に依存しうるところはどこまでで、依存しえないところはどこからなのかを画定する必要がある、民主的正統性を回復する手だてが必要、公衆に訴えかけるメタファの研究が必要、公衆の意識の調査が必要であることなどか明らかになっており、今後の研究が着実に進展することが見込まれる。 組織的な面でも、2019年度は、代表の田村の北大から東大への移籍、新たにサブリーダーとなる中山の國學院大から北大への移籍に伴い、東大・北大を本プロジェクトの二大拠点として位置づけるため、既存の知的財産法研究会(北大)に加えて、新たに立ち上げる知的財産法研究会(東大)の両輪を活用して、共同研究を遂行した。今後も引き続き、この二大拠点を活用して、研究分担者の相互交流に止まらず、各地の知的財産法関連の研究会が有するネットワークを活用して、本拠点の研究を推進し、その成果を還元するパブリック・ドメイン研究会を積極的に推進していく。 コロナ禍が広がるなか、対面での研究会やシンホジウムの実施が困難となっているが、その反面、国内外の大学を中心に整備されつつあるネットワーク関連のインフラストラクチャーを活用し、オンラインでの諸会議の開催を推進していく。オンラインでは、国外を含めて遠隔地の者が安価に容易に会議に参加することが可能となり、その結果、多様な参加者を確保するというメリットがあることを最大限、活用していく。
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Research Products
(108 results)