2018 Fiscal Year Annual Research Report
"Theme and Variations" in Music of Folk Performing Arts: Diachronic and Synchronic Studies on Hayashi's Motifs
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18J00237
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Research Institution | Kobe University |
Research Fellow |
川崎 瑞穂 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 日本 / 民俗芸能 / 祭礼 / 儀礼 / 音楽 / モチーフ / 民族音楽学 / 構造人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の民俗芸能の音楽に広く用いられているモチーフ(「テケテットン」「おかざき」「鼓笛隊」「風流」「道行」)の分布を調査し、各地の事例でどのように変奏されているのか、その通時的・共時的研究を試みるものである。 1年目は、東北・関東・中部地方の民俗芸能を中心に調査を行った。特別研究員奨励費を使用していない調査も含めると、調査は計40回、事例は計67となる(民俗芸能の公演等も含む)。調査の結果、それぞれのモチーフは、東北・関東・中部地方の各地で、様々に形を変えて分布していることが明らかになった。また調査の中で、新たにいくつかの事例に共通するモチーフを析出することもできた。来年度の中部・近畿・中国四国地方の調査では、「道中歌」「太神楽」「間奏」と便宜的に名称を付したこれら三つのモチーフも調査対象に加える。 1年目の調査研究で得られた結果については、いくつかの学会で発表した。第77回神戸人類学研究会では「テケテットン」「道中歌」、韓国日本文化学会第55回国際学術大会では「テケテットン」、日本音楽学会第69回全国大会では「太神楽」、民俗芸能学会東京大会シンポジウム「民俗芸能研究の新しい視点に向けて」では「テケテットン」「間奏」、日本民俗音楽学会第32回大阪大会では「おかざき」のモチーフの分析を行った。 また、特別研究員奨励費は用いていないが、パリで開催された「ジャポニスム2018」参加企画のシンポジウム「日本文化の精神、美、伝統」に登壇し、フランス語講演を行った。1年目に調査した民俗芸能「鬼来迎」の様々な「音」について、クロード・レヴィ=ストロースの構造論(特に「料理の三角形」理論)に依拠して分析を試み、フランスの研究者の様々な意見を聞くことができた。当発表はモチーフの分析ではないものの、この発表で得られた方法論的な知見は、2年目以降のモチーフ分析において応用していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
調査については、日程等の関係で当初予定していた事例を別の事例に変更することはあったものの、東北・関東・中部地方の広範囲の事例を調査することができた。さらにこれらの調査に加え、2年目以降への足掛かりとして、2年目の調査対象である中部・近畿・中国四国地方、3年目の調査対象である北海道・九州沖縄地方の事例もいくつか調査した。上記調査のうち、撮影不可能な公演等以外では、録音、録画、撮影を行うことができた。 研究では、上記調査で採集した様々な音楽を分析し、使用されているモチーフを判定し、変容の実態を明らかにした。その結果、当初広範な分布を示すモチーフとして挙げていた五つのモチーフの分布域はこれまで以上に拡大し、さらに新たな三つのモチーフの発見に至っている。 また、これらの研究成果のうち、「テケテットン」「おかざき」「道中歌」「太神楽」「間奏」のモチーフについては、学会で口頭発表を行うこともできた。「テケテットン」については、高麗楽「納曽利」に用いられるリズム型「揚拍子」が起源であるという作業仮説を既に発表している(2016年の論文)。韓国日本文化学会では、早池峰神楽の演目「竜殿・竜天」のリズム型と、「テケテットン」との歴史的な関係性を検討し、かつ韓国の芸能研究者の意見も聞くことができた。これは通時的研究の成果である。これに対し、芸能史的な説明が困難なモチーフの類似性についても考察することができた。神戸人類学研究会、民俗芸能学会、日本民俗音楽学会では、これらのモチーフの「形」に注目し、その変形の論理的構造を描き出した。これは共時的研究の成果といえる。 さらに、神戸大学の文化人類学コースに所属する中で、人類学における「存在論的転回」を視野に入れることができ、方法論的な面でも研究を深化させることができたことは、特別研究員制度ならではの成果である。以上の点から当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目も引き続き、民俗芸能の調査を行い、モチーフの通時的・共時的研究を行っていく。中部・近畿・中国四国地方において未調査の芸能を中心にモチーフの探索を行うほか、3年目の北海道・九州沖縄地方の調査に向けた下調べ等も並行して行う予定である。中部地方は1年目にも調査したが、特に東部の調査が中心となったため、2年目は西部を中心に調査を行う。 1年目は、特別研究員奨励費により、前述のように広範囲にわたって調査を行うことができたものの、東北・関東・中部地方の民俗芸能を1年間で網羅的に調査することは不可能であるため、先行研究において特に注目されている事例を中心に、かつ民俗芸能の分類上、偏りがないよう慎重に選定して調査することとなった。また、1年目には調査できなかった県もあるため、東北・関東・中部地方のいくつかの事例については、2年目以降に追加調査を行うことも視野に入れている。 研究の発信については、当初1年目に予定していた論文としての発表を、学会での口頭発表に切り替えたため、2年目以降に学会誌に投稿する。2年目の前半では、1年目の調査結果を基にして、東北・関東・中部地方におけるモチーフの分布図を作成する予定である。2年目の後半では、1年目に口頭発表を行った研究を中心に論文を執筆し、学会誌に投稿するほか、1年目と同様に、国内外の学会で積極的に口頭発表も行う。これら1年目の研究の発信と並行して、1年目の調査結果と2年目の調査結果を比較し、その関係性についても考察するほか、民俗芸能の音楽の構造人類学的研究に関する方法論的な検討も行っていく。 1年目の特別研究員奨励費は、旅費だけでなく、パソコン用ソフトや書籍の購入等、研究の準備のための物品費にも割かれている。2年目以降の特別研究員奨励費は、ほぼ全て調査や学会発表のための旅費に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)