2019 Fiscal Year Annual Research Report
都市先住者の集落とエスニシティ ─「バタヴィア先住民」が示す現代的共同性
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18J00339
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
中村 昇平 金沢大学, 人間社会研究域人間科学系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エスニシティ / インドネシア / 集落 / カンプン / 武術 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、8月、9月、3月にそれぞれ2週間程度ジャカルタ周辺地域に滞在して現地調査を行なった。三度の現地調査では、バンテン州タンゲラン市に滞在しながら西ジャワ州デポック市のカンプン・ウタンと呼ばれる集落に通い、先住者を対象として社会活動への参与観察と親族関係に関する聞き取り調査を実施した。 特に、カンプン・ウタンの先住者が中心となって運営する伝統文化サークルにおける武術実践に注目し、集落の伝統文化の継承と改変への意識や態度、および、身体実践に現れる帰属意識に関する調査研究を行っている。その一端として、身体技法の教授・学習を、模倣の反復を通した比喩的表現(「わざ」言語)の段階的理解という枠組によって説明するのではなく、論理の提示と体感を通した理解という枠組によって説明することを試みている。 また、カンプン・ウタンで実践される武術流派「ゴンベル」に関しては、近隣他地域で行われる同流派で系譜の異なる組織についても参与観察とインタビューを行った。ここから、武術実践にかかわる理解と改変、および、そこから生じる微細な差異が、実践者集団の帰属意識と強く結びついていることが明らかになった。この成果は令和2年3月開催のインドネシア研究懇話会研究大会で口頭発表の予定であったが、新型コロナウイルスの影響で中止となった。 カンプン・ウタンに関する調査研究と並行して、平成30年度から京都市西京区の樫原と呼ばれる村落とその周辺地域において、「桂ヴィレッジ・フェスティバル」、「樫原町家灯籠会」などの社会活動や、村の伝統的慣行への参与観察を行なっている。令和元年度は、樫原周辺の調査研究を継続し、京都郊外とジャカルタ郊外を比較社会学的観点から論じる試みを開始した。その成果の一端は、令和元年10月に風響社から刊行されたブックレットで公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、集落への帰属意識からブタウィ人の民族意識を説明しようとするものである。平成30年度提出の博士論文では、集落先住者が中心となって運営する住民自治組織の活動から、これまでジャカルタの住民コミュニティ研究では実態が明らかにされてこなかった先住者ブタウィの集落(カンプン)への帰属意識を説明した。令和元年度は、8月、9月、3月の3度ジャカルタ周辺での現地調査を行い、集落先住者の親族関係の詳細を調査した。この調査が順調に進展すれば、社会組織と親族認識の両面からブタウィの先住者集落の実態を明らかにできることが見込まれる。 本研究はまた、京都郊外の村落先住者としての自身の立場性を踏まえた上で調査経験を振り返ることで、京都周辺の村落とジャカルタ周辺の集落を比較の俎上に載せる試みを開始し、令和元年10月には単著として成果を刊行した。この試みが順調に進展すれば、インドネシアの慣習村研究と都市研究、日本の村落研究を接合し、三者を新たな観点から捉え直す議論となることが期待できる。 以上の点に鑑みて、本研究は期待通りに進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
カンプン・ウタンでの親族関係の調査を継続するとともに、旧来の都市集落と隣接しながらそこからは空間的・階層的に隔離分断されるスクウォッター地区やゲーテッド・コミュニティの生活世界に着目し、インフォーマル領域で展開する経済活動と、行政村落を単位とした地域の活動の実態を詳細に観察する。民族的にも階層的にも異なる先住者と外来住民が共同で参加するこれらの社会・経済活動を分析することで、隔離した生活世界の双方にどのよう な社会関係が構築され、連帯の契機がどのように現れるのかを解明し、そこで生起する排除と包摂のメカニズムを明らかにする。 加えて、集落内部で行われる伝統的な慣行にも注目する。特に、伝統武術実践に着目することで、身体に染み込む実践の感覚が集落の帰属意識といかに関わるのかを明らかにする。 カンプン・ウタンに関する調査研究と並行して、京都市西京区の樫原村落とその周辺地域において、「桂ヴィレッジ・フェスティバ ル」、「樫原町家灯籠会」などの社会活動への参与観察を行なう。令和元年度は、樫原周辺の調査研究を継続し、京都郊外とジャカルタ郊外を比較社会学的観点から論じた。その成果の一端は、2019年10月に風響社から刊行のブックレットで公表した。この調査を本年度も継続する。
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