2018 Fiscal Year Annual Research Report
亡命者が伝えた音楽――18世紀ドイツの音楽文化におけるユグノーの役割
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18J00522
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
七條 めぐみ 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | バロック音楽史 / 亡命ユグノー / 宗教移民 / 楽譜出版 / 宮廷音楽 / フランス音楽 / ドイツ音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀にフランスを亡命したプロテスタント教徒(ユグノー)の文化的貢献に着目し、亡命先の環境とユグノーたちの職業的・文化的営みとの関係を読み解きながら、それを近世ヨーロッパの音楽文化に置き直すものである。2018年度は先行研究の整理を行うとともに、18世紀ドイツのユグノーの文化的貢献に関して、①楽譜出版業におけるフランス人出版家の活動、②宮廷音楽文化におけるフランス人貴族、音楽家、舞踏家の活動の観点から調査を行った。 ①に関しては、18世紀ドイツの楽譜出版業の中でも、フランスからの移民が多く、また出版業の拠点として発展を遂げつつあったベルリンの状況に目を向け、ユグノーの出版家であったロベール・ロジェとアルノー・デュサラの経歴と活動に注目した。ベルリン州立図書館での資料調査、ベルリン=フランス教会図書館(閉鎖中)のロベール・ヴィオレ氏からの助言を通じて、彼らが1701年~31年の間に複数の詩編集の印刷・出版を行い、亡命ユグノーの宗教的・文化的活動に貢献していたことが分かった。 ②に関しては、J. S. バッハがフランス音楽の様式に触れる一つの機会となった、中部ドイツのツェレの宮廷音楽文化に注目した。ツェレの公主となったエレオノール・ドブルーズは、フランス西部出身のプロテスタント貴族で、彼女がツェレに来たことで、同地は亡命ユグノーの受け入れ先およびフランス人音楽家や役者たちの活動の場となった。2018年度は主に、ツェレとその周辺の宮廷音楽に関する先行研究をもとに、フランス人音楽家や舞踏家の抽出を行った。その結果、1650年代からフランス風バレエの上演が行われ、エレオノールが公主となった1665年から1705年頃まで、楽長ラ・ヴィーニュ、舞踏家兼ヴァイオリン奏者ラ・セルなどが中心となってフランス風のバレエや器楽が上演・演奏されていたことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度には本研究課題に関連する先行研究を精査するとともに、ベルリンとパリでの資料調査を行い、研究を進展させることができた。ただし、当初行うはずだったベルリン=フランス教会図書館は閉鎖中のため資料を閲覧することができなかったほか、新たにプロイセン文書館で調査を行う必要性が生じた。これら機関においては、2019年度夏期に追加調査を行う予定である。 また、研究成果の発表に関しては、2018年度は本研究課題と関心を共有する別のテーマでの発表が中心となった。そのため、2019年度は本研究課題に関する論文の執筆、研究発表を積極的に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は引き続き、ユグノーによる音楽文化への影響について「楽譜出版業への参入」と「宮廷音楽の実践」に着目して研究を行う。 前者については、これまでに伝記的資料の調査を行ったロベール・ロジェとアルノー・デュサラの出版活動の実態解明を進める。具体的には、プロイセン文書館、ベルリン=フランス教会図書館で調査を行い、詩編集を中心とする出版物がベルリンのフランス 人コミュニティにおいてどのような役割を持ったのか、考察する。また、両者は申請者の博士論文で主題となったアムステルダムの楽譜出版者 エティエンヌ・ロジェと関わりを持つことから、アムステルダムの出版譜のベルリンにおける受容という観点からも検討を進める。申請者は、 これらの成果を博士論文をもとにした単行本として出版することを目指し、本年度中にその執筆を完了する。 宮廷音楽に関しては、J.S.バッハがフランス音楽に触れる機会となったツェレの宮廷に注目し、同地に亡命したプロテスタント貴族エレオノー ル・ドブルーズによるユグノーの受け入れと、それにともなうフランス音楽や劇の上演の実態を明らかにする。具体的には、ザクセン州立文書館で調査を行い、これまでに抽出したフランス人音楽家や舞踏家の来歴、活動内容、および宮廷で上演された劇作品の演目、出演者、上演方法について検討を進める。
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Research Products
(1 results)