2019 Fiscal Year Annual Research Report
亡命者が伝えた音楽――18世紀ドイツの音楽文化におけるユグノーの役割
Project/Area Number |
18J00522
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
七條 めぐみ 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2023-03-31
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Keywords | バロック音楽史 / 音楽文化史 / ユグノー / 楽譜出版 / 詩篇集 / 宗教移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀にフランスを亡命したプロテスタント教徒(ユグノー)の文化的活動に着目し、それを近世ヨーロッパの音楽文化に置き直すものである。2019年度は、「18世紀ベルリンにおけるフランス人出版家の活動」に関する研究を継続した。一方で、2019年夏に予定していた「中部ドイツの宮廷におけるフランス人貴族、音楽家、舞踏家の活動に関する資料調査」は妊娠のため実行できなかった。そのため、すでに収集した資料の分析と歴史的文脈の検討を中心に行った。 「18世紀ベルリンにおけるフランス人出版家の活動」に関しては、ベルリンで1701年~31年にかけて出版された『ダヴィッド詩篇集』(プロテスタントの改革派教会で歌われる讃美歌集)の構成・序文等の分析、および出版をめぐる歴史的文脈の検討を行った。亡命ユグノーの出版家であるR. ロジェとA. デュサラによる複数の『ダヴィッド詩篇集』の比較・分析を行った結果、R. ロジェによる版は1679年にフランスで出版された「改訂版」を受け継いでいることを明言しつつ、新たにプロイセン王フリードリヒ1世からの允許を明記することで出版物としての価値づけを行っていることが明らかになった。一方、R. ロジェ版より数年後に出版されたA. デュサラ版では、改革派教会の教義や礼拝に関する文言が追加され、より宗教的実践と結びついた書物となっていることも分かった。 また、これらの特徴を『ダヴィッド詩篇集』の出版と伝播の系譜に位置づけたところ、R. ロジェとA. デュサラによる版は必ずしも詩篇集の出版の中心地で発信されたものではないことが見えてきた。しかし、ベルリンがユグノーの主要な亡命先であることを考慮すると、両者による『ダヴィッド詩篇集』は亡命者の宗教生活を維持するために重要な役割を果たしたと言うことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度はベルリン=フランス教会図書館および、ザクセン州立文書館での資料調査を予定していたが実施することができなかった。そのため、当初の研究計画を変更し、2018年度に収集した資料の分析と二次文献を用いた考察を行った。18世紀ベルリンで出版された『ダヴィッド詩篇集』の史料的特徴と歴史的意義に関しては、一定の研究成果を得ることができたと言える。以上の成果を論文として発表したほか、筆者の博士論文に基づくフランス語の論文を投稿した。 ただし、実地調査なしで本研究を進めることは困難であり、出産・育児による研究中断を経て、復帰後すみやかに欧州での資料調査を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は1年間の研究中断を経て、2021年度に研究を再開する予定である。その際、2019年度に実施できなかった「中部ドイツの宮廷におけるフランス人貴族、音楽家、舞踏家の活動」に関する資料調査を行い、宮廷音楽の実践における亡命ユグノーの影響に関する研究を進める。具体的には、ニーダーザクセン州立文書館での実地調査を行い、中部ドイツのハノーファー、ツェレの宮廷に亡命したエレオノーレ・ドブルーズによるユグノーの受け入れと、それにともなうフランス音楽や劇の上演の実態を明らかにする。また、ベルリン=フランス教会図書館での追加調査も行い、「ベルリンにおけるフランス人出版家の活動」に関する研究を補完する。 今後はさらに、研究の成果発表も積極的に行う。「ベルリンにおけるフランス人出版家の活動」に関する研究結果をまとめ、学術誌へ投稿するとともに、宮廷音楽に関する研究内容とあわせ、18世紀ドイツの音楽文化における亡命ユグノーの果たした役割を多角的に実証する。
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Research Products
(2 results)