2018 Fiscal Year Annual Research Report
方向指向性行動を制御する昆虫単一神経細胞で行われる樹状突起内情報統合の解明
Project/Area Number |
18J00589
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Research Institution | Hokkaido University |
Research Fellow |
設樂 久志 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 神経科学 / 昆虫 / 方向選択性 / 樹状突起 / 電気生理 / Ca2+イメージング / 単一神経細胞 / 気流 |
Outline of Annual Research Achievements |
単一神経細胞内で生じる情報統合を理解するためには、入出力がはっきりとした単一神経細胞に注目し、どの部位にどんな入力を受け演算処理を行うのか調べる必要がある。本研究では、コオロギ尾部に位置する最終腹部神経節内の巨大介在ニューロン(GIs)を用いて、情報統合様式を明らかにする。GIsは気流方向選択性を持った同定ニューロン群であり、それぞれの神経細胞が方向選択性や刺激速度に対して特徴的な応答を持つ。GIsに電気生理学的手法とCa2+イメージング法を用い入力と出力の関係を明らかにしていく。 まず、GIsの入力と出力をそれぞれ、Ca2+イメージング法と電気生理学的手法によって計測する系を立ち上げた。これまで、GIsで同時に神経発火とCa2+応答を計測した例はないため、同時に計測を行いCa2+応答が入力分を表現するのか調べた。特に、入力分のCa2+応答を正確に計測するため、神経軸索に刺激を入れ、逆行性の神経発火が生じた際のCa2+応答を気流刺激の応答と引くことで入力分を見積もった。いくつかのGIsではCa2+応答がほとんど出力応答と一致することがわかったが、方向選択性を強く持つ10-3では樹状突起特異的に入力応答が異なることが明らかになった。 次に、GIsの樹状突起上の抑制性入力の役割を明らかにするため、GABA受容体阻害剤をGIsが樹状突起を持つ最終腹部神経節に投与し応答性を調べた。picrotoxinを投与した場合、Ca2+イメージングの結果から記録したGIsで樹状突起上の方向選択性が失われるということがわかった。また、picrotoxin以外ではgabazineやbicucullineも投与して実験を行ったが、これらの試薬に対しては応答性の変化が観察されなかった。以上の結果を含め、GIsの樹状突起上へ入ってくる抑制性入力の役割が一部明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画していた、GIs樹状突起上の抑制性入力の役割を明らかにすることは、系の確立に時間を要してしまいやや遅れている。目標を達成するためには、薬剤投与前後で長時間の観察を行う必要がある。そのため、安定して記録の取れる系の確立は本研究課題において重要だが、サンプル作製法の検討に時間が取られてしまった。一方で、気流刺激に対する活動電位とCa2+応答の同時記録から、新たに入出力を定量化することは可能になったため、今後記録を取得する点については問題ないと考えている。実際に、GIsのうち10-3においてそれぞれの樹状突起で異なる方向選択性を持った入力を受けていることがわかった。 次に抑制性入力の役割を明らかにするため、GABA受容体阻害剤を用いて応答性の変化を調べた。GABA受容体阻害剤のpicrotoxinを使用した際に神経発火数が上昇しはっきりとした効果が見られた。しかし、樹状突起上特異的な抑制性入力を明らかにするためには、より穏やかな神経活動の変化を示す環境で記録を取ることが求められる。そこで、picrotoxin以外にもgabazineとbicucullineを用いて実験を行ったが、これらの試薬では神経活動の変化が見られなかった。以上から、GIs上の抑制性入力の役割を完全に明らかにするまでには今のところ至っていないが、少しずつ結果を得るところまでは来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずpicrotoxinを用いたGIsの抑制性入力の役割解明を目指して実験を行う。picrotoxinの効果は非常に強烈であるため、試薬投与の条件を検討し、穏やかな条件下で記録を取得することを考えている。GABA受容体阻害剤の投与前後で気流刺激の方向に対する応答性がどの様に変化するかを調べ、応答性の変化から樹状突起上どのどの部位にどの様な抑制性入力が入ってきているのかを明らかにする。また、当初計画していなかった別の薬理投与の実験として、GABA取り込み阻害薬を使用した実験も検討している。取り込み阻害薬を使用することにより、抑制性入力が増強されることが予想されるが、入出力の方向選択性が変化することでどの部位にどの様な抑制性入力が入ることで出力の方向選択性が形成されるか明らかにすることが可能になると考えている。 次に、より局所的な興奮性・抑制性入力部位を明らかにするためにGIsの局所刺激法の確立を行う。興奮性・抑制性入力を局所的にコントロールする方法として、局所的な光刺激や局所的な薬剤投与の手法を考えている。局所的な光刺激を行うために、最終腹部神経節内の神経細胞にエレクトロポレーション法を用いてタンパク質を発現させることが必要となる。そこで、先行研究にならい、GIsに遺伝子導入できるかどうかを調べる。これが困難であった場合は、ケージド化合物をあらかじめ最終腹部神経節内へ投与しておき、局所的な光刺激を与えることにより局所入力をコントロールすることを予定している。これらの実験手法を確立し、局所的な興奮性・抑制性入力が出力にどれくらいの影響を与えているのか明らかにしようと考えている。
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