2019 Fiscal Year Annual Research Report
ベラルーシ及びウクライナにおける民族語の威信形成に関する比較研究
Project/Area Number |
18J00650
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清沢 紫織 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | ベラルーシ語 / ウクライナ語 / 言語政策 / 言語史 / 標準語化 / 規範文法 / 威信計画 / 実体計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ベラルーシ及びウクライナにおいて基幹民族の民族語の威信がいかに形成・強化されてきたのかを1)実体計画に関する課題、2)地位計画に関する課題、3)普及計画に関する課題の3つの課題を設定し、体系的に比較・考察するものである。 本年度はまず1)について、ベラルーシ語の標準語化に関する研究論文を2本執筆した。1つは、第一次世界大戦期のベラルーシ人知識人らのメタ言語言説を考察することで、現代ベラルーシ語の標準語規範の基礎となったB.タラシケヴィチ『学校のためのベラルーシ語文法』(1918年)の標準語史上の意義と役割を同時代的な視点から捉えなおすものである。この論文は既に査読審査を通過し、受入研究者である野町素己教授と共同で編集に当たっている研究論集(ロシアの学術出版社JaSKから刊行予定)に収録が決定している。もう1つは、ベラルーシ語の標準語化プロセスにおける文字選択の問題について先行研究の不十分な戦間期の東西のベラルーシの状況に着目し考察するものである。この論文は受入研究機関での冬期国際シンポジウム(2018年)の研究論集に収録予定で現在査読審査中である。 今年度は更に1)に関連し、ベラルーシ及びウクライナにおける民族語の文字選択の問題を東スラヴ地域全体というより広い文脈に位置づけるために、両言語と密接な関係にあるロシア語のラテン文字化をめぐる問題についても考察を行い、その成果について日本ロシア文学会第69回大会にて口頭発表を行った。 また3)について、昨年に引き続き文学作品を通じて人々の間に普及する民族語のイメージの問題に関して考察を進めた。特に翻訳作品における混成語の使用をめぐるメタ言語言説の分析を更に深め、その成果について国際学会The 10th East Asian Conference on Slavic Eurasian Studiesにて口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、これまでの研究の進捗状況を考慮し、まず1)実体計画に関する課題についての成果取りまとめに中心的に取り組んだ。特にベラルーシ語史に関する課題については、予定通り前年度の研究成果を査読付き研究論文(英語1本、ロシア語1本)として完成させた。さらに1)に関連する追加の検討課題として、ベラルーシ及びウクライナにおける民族語の文字選択の問題を東スラヴ地域全体というより広い文脈に位置づけるために、両言語と密接な関係にあるロシア語のラテン文字化をめぐる問題を取り上げ、特にベラルーシ語のラテン文字化の問題と比較考察を行った。また、これまで遅れ気味であったウクライナ語の標準語化プロセスに関しては、入手済みのウクライナ史やウクライナ語史に関する文献の精読を進め、先にまとめを行っているベラルーシ語の標準語化に関する研究成果との対照を念頭に考察を行っている。 ウクライナ語に関する文献の精読の過程では2)地位計画の課題に関連して、ウクライナ語の法的地位や言語法をめぐる状況についても史実の整理と考察に着手し、そのまとめに入っている。3)普及計画をめぐる課題についても昨年に引き続き研究を進め、村上春樹の短編小説「イエスタデイ」のロシア語翻訳を取り上げた事例研究を19世紀以降のベラルーシ文学の作品の事例との比較も行いながら分析を深めた。 以上のように各研究課題に関して、ベラルーシ語をめぐる研究は当初の計画以上に進展している。しかし、ウクライナ語をめぐる研究については1)と2)の課題を中心に資料の精読と考察が進んではいるものの、全体として進捗は遅れ気味である。加えてコロナウイルスの感染拡大を受けて3月にキエフにおいて実施予定であった資料収集が急遽中止になった。以上から、現状では研究全体の進捗は当初の計画よりやや遅れている状況にあり、3年目は研究計画の見直しと一層集中的な研究活動を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、まず上記の研究目的の1)実体計画に関する課題のうち「言語状況史の記述」と「民族語の威信を支える「真正な」標準語の創出とその変容過程の整理」について、ベラルーシ語とウクライナ語のそれぞれについてその研究成果をまとめる。更にこれと並行して、2)地位計画に関する課題についてはウクライナ語をめぐる状況についての資料精読を集中的に進め研究を完成させる。さらに、3)普及計画に関する課題については、これまで進めてきた文学作品を通じて人々の間に普及する民族語のイメージの問題についてウクライナ語の用いられる文学作品について考察の対象を広げ研究を完成させる。 1)に関する課題のうちベラルーシ語史に関する問題については、刊行準備を進めている博士論文をもとにした単行書に前年度までの研究成果を含める形でまとめる。ウクライナ語史に関する問題については、ベラルーシ語との対照を念頭に考察を完成させ、学術雑誌へ論文投稿を行う。また、これまで集中的に取り組んできた文字の問題については、ベラルーシ語、ウクライナ語、ロシア語の3言語の比較研究として論文にまとめ投稿を行う。 2)に関する課題については、特にウクライナ語をめぐる状況についての研究論文や法律文書等の精読を進め、先に進めてきたベラルーシ語に関する研究成果との対照という形でまとめる。その成果の一部は国内学会で報告し、論文ないし研究ノートとしてもまとめ投稿を行う。 3)普及計画に関する課題については、前年度までに考察を進めてきた村上春樹の短編小説「イエスタデイ」のロシア語翻訳をめぐる問題を論文としてまとめ投稿を行う。合わせてこの考察の成果を生かしてウクライナ語を用いた文学作品の考察も行い、文学作品を通じて人々の間に普及する民族語のイメージの問題についての研究を完成させる。
|
Research Products
(4 results)