2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J00781
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
銭谷 真人 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 日本語史 / 表記史 / 平仮名 / 仮名字体 / あて字 / 人情本 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世においては、平仮名の字体が収斂していく一方で、表記に多様性が生まれた。当時の平仮名の表記体系は、読み易さを追求した実用的なものと、見た目の良さを志向した装飾的なものとに分化しており、個人レベルではその使い分けが行われていたと推定される。さらに出版物においても、そのような使い分けの不文律のようなものがあった可能性がある。手書きにおける個人レベルの使い分けと、出版物における共通認識による使い分けの両方について調査を行い、実態を明らかにすることを本研究の目的とする。 平成30年度は主として出版物における装飾的な字体についての研究を行い、その成果を学術論文としてまとめた。近世版本における平仮名の字体について、人情本の序文と本文の字体を比較することにより、序文においては装飾的な字体が用いられていたことを明らかにし、具体的にどのような字体が用いられていたのかも示した。これにより、平仮名の字体が収斂していく中で、実用的な字体と装飾的な字体の分化が、版本において見られるようになっていたことが明らかになった。 また本研究においては、表記の多様性という観点から、平仮名の字体のみならず、近世近代の「あて字」についても考察を行った。「あて字」も一種の装飾的な表記と見做すことができ、漢字の用字法と平仮名の用字法を有機的に関連付け、近世近代の表記史として統合的に記述することを最終的な目的とする。 平成30年度「あて字」については、主に日本語歴史コーパスを利用したデータベースの基礎を構築することを行った。そして学会発表において、データベースの構築方法と、「あて字」の近代への伝播という点に主眼を置いた検証結果を報告した。これにより、次年度以降の研究方針を固めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平仮名の装飾的な字体については、先行研究においても言及されてきたが、実際にどのような字体がそれに該当するのか、具体的には示されこなかった。そのため本年度は当初の予定を変更し、まずは出版物についての調査を実施し、どのような字体が装飾的な字体に当たるのかを見出した。二年目以降に行う予定であったものを先行して行ったものであり、研究の順番が変更になったのみで、全体としては順調に進展しているものと考える。 「あて字」については、本年度は基礎研究を行うことを旨としていた。学会発表を行うことにより様々な指摘や意見をいただき、今後の方針が定まったということもあり、初年度の成果としては十分であったものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平仮名の字体について、平成31年度は個人レベルでの使い分けに着目し、日記、書簡、自筆稿本など、媒体による差異が見られるか検証を行う。また教育史的な観点から、どのようにして装飾的字体を習得していったのかも考察していく。 「あて字」について、近代における「あて字」の発生については、白話語彙が関係しているものがあると考えられるが、白話語彙由来の「あて字」については、まだ十分に検証できているとは言えない。白話語彙については、独自の調査結果をデータベースに加え、その上で発生についての考察を行う必要がある。また現在では「あて字」とされているものの中には、近代においてはごく一般的な表記であり、現在の熟字訓のように用いられていたものも含まれている。「あて字」と熟字訓の境界についても考察していく。
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