2018 Fiscal Year Annual Research Report
1960年代アメリカにおけるルネ・マグリット受容の研究
Project/Area Number |
18J01113
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
利根川 由奈 日本女子大学, 人間社会学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ルネ・マグリット / 20世紀美術史 / 文化政策 / シュルレアリスム / アメリカ美術 / ベルギー美術 / 展覧会史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1960年代アメリカにおいてマグリット作品にどのような社会的・美術史的価値が見いだされたのかの解明を目指す。具体的な到達目標は、【1】マグリット作品の社会的価値を、べトナム戦争との連関を通じて解明すること。【2】マグリット作品の美術史的価値を、アメリカ美術史におけるモダニズムの議論を通して解明すること。 採用初年度の到達目標は、【1】(a)「マグリット」展(1965年、ニューヨーク近代美術館)における《生存者》の置かれた文脈の同定、【1】(b)《生存者》の同時代的受容の把握、であった。同展キュレーターのジェームズ・スラル・ソビーはマグリット作品の室内表象を、日常生活に得体の知れない不審者が侵入するイメージとして解釈していた。中でも、戦争によって人間がライフルに駆逐されたさま、あるいは人間がライフルになり替わったさまを想起させる絵画《生存者》を、ベトナム戦争時にアメリカ国民が体感した恐怖と重ね合わせた可能性がある。そのため、展覧会カタログ、インタビュー、書簡におけるソビーの言説を分析し、ソビーの《生存者》解釈、ならびに「マグリット」展において《生存者》が置かれた文脈を同定した。 その結果、ソビーはマグリットの作品ならびに作家を、市民の日常生活に忍び込み、それを脅かすシークレットエージェント(スパイ)とみなしていたことがわかった。同時に、ソビーはマグリット作品の持つ陰鬱さを、ヨーロッパの低地地方(オランダ・ベルギー)の芸術の系譜に位置付けたことがわかった。《生存者》もまた、同時代のベトナム戦争との関連ではなく、オランダ・ベルギーの悪魔学の系譜に属し、鑑賞者の恐怖をかきたてる作品だとソビーが解釈していたことがわかった。また、このソビーのマグリット解釈が同時代の批評家に共有されていたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿った資料調査を行った結果、採用初年度の研究目的である【1】(a)「マグリット」展(1965年、ニューヨーク近代美術館)における《生存者》の置かれた文脈の同定、【1】(b)《生存者》の同時代的受容の把握、の2点を達成したため。
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Strategy for Future Research Activity |
上記した研究目的の【1】(c)《生存者》の制作・展示の意図を明らかにするため、マグリット(Note pour le Parti Communiste)、マルセル・マリエン(Avertissement)の言説の検討を行う。また、《生存者》が出品された《芸術と平和》展(リヨン、1950年)の資料収集のために、王立美術館アーカイヴ(ベルギー)で資料収集を行い、資料を精読する。次に、【2】(a)「ダダ、シュルレアリスムとその遺産」展(MoMA、1968年)のキュレーター、ウィリアム・ルービンの《個人的価値》解釈、ならびに同展において《個人的価値》の置かれた文脈を同定するため、ルービンによるカタログ(Dada, Surrealism, and Their Heritage)、インタビュー(interview with Ruth Bowmanなど)の分析を行う。研究成果をまとめ、論文執筆と学会誌投稿を行う。
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