2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J01262
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Research Institution | Keio University |
Research Fellow |
中村 彰宏 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 繊毛 / 遺伝子欠損細胞 / カルシウム / 卵管 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画初年度は①ホルモン応答条件の比較、②卵管内分泌液の成分分析の2つを柱とした生体での評価を計画していた。しかしながら性周期や週齢の異なるメスマウスの卵管繊毛の観察及び解析からはその運動強度に有意な差は認められなかった。この原因として摘出した組織の培養液中成分が摘出組織、繊毛運動にとって最適の条件であることから生体内の条件を反映していない可能性が示唆された。そこで培養液条件の検討が必須であり、計画2年目はこの条件検討を実施する計画である。本研究計画では野生型マウスでの繊毛運動制御及び繊毛運動の環境からの運動制御を明らかにするとともに、繊毛運動を制御するとされるタンパク質を欠損させたマウス(Tgマウス)を作製することでそのメカニズムを明らかにすることを目的の一つと考えた。当初の計画では初年度は遺伝子ホモ欠損マウスを作製するために交配を行うとともに野生型マウスでの解析を進める計画であったが、多く交配させたことや計画よりも多くの産仔を得ることができたことなどから予定よりも早くホモ欠損マウスを確立することができた。このことを受け、計画では2年目の後半に計画していた遺伝子欠損マウス組織と野生型マウスでの繊毛運動の運動評価を実施した。その結果、卵管繊毛、気管繊毛、脳室繊毛の運動に大きな差は認められなかったものの、初期胚の繊毛においては野生型マウスの繊毛が周期的な円運動を行うのに対し、Tgマウスの繊毛は円運動を取らないことが明らかとなった。遺伝子欠損マウスの中には内臓逆位を示す個体が約半数おり、この内臓逆位の原因は初期胚の繊毛の運動異常に起因するものであると考えられる。また、遺伝子欠損マウスの胎仔から胎仔性線維芽細胞を採取、培養し細胞ストックを獲得した。2年目計画にもある「培養細胞の樹立・解析」と「培養細胞でのカルシウム上昇の可視化」といったin vitroの解析系の確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた野生型マウス組織での繊毛運動制御は初年度達成することはできなかったが、遺伝子欠損マウスの作製及びそこからの細胞取得といった2年目計画の準備はすでに整っている。また当初計画にはなかったが、卵管繊毛だけでなく、脳、気管、初期胚などの繊毛運動について比較することができた。特に野生型マウスと遺伝子欠損型マウスの様々な繊毛の運動を比較した結果、運動に差の生じる繊毛と差の生じない繊毛があることは今後の計画に大きな示唆を与えるもの出会った。具体的には、差が生じる繊毛は1つの細胞から1本の繊毛が生じる単繊毛で円運動を行うのに対し、差が生じなかった繊毛は1つの細胞から複数の繊毛が生えている多繊毛で波打ち運動を行うものであった。このことから運動方向、運動様式が異なるこれらの繊毛は制御機構が異なる可能性が大いに考えられる。今後、野生型繊毛の環境応答を解析する上で、この運動様式には注意したい。以上のことから、当初の計画からやや離れてしまった部分も少なくはないが、多くの知見を得ることができ、初年度としては大いに進展したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、まず2年目は計画通りin vitroでの解析系の確立を目指す。すでに野生型マウス及び遺伝子欠損型マウスから胎仔性線維芽細胞を採取し、不死化とリプログラミングによる人工多能性幹(iPS)細胞の樹立を試みている。iPS細胞を樹立後は分化誘導により繊毛細胞への分化誘導を試みる。すでに国内の研究グループが気管繊毛細胞への分化誘導に成功したとする論文発表を行っており、これに習い私は卵管繊毛細胞(卵管上皮細胞)への分化誘導を試みる。このためにまず分化誘導の手技を学ぶとともに、分化誘導因子を同定する必要がある。これに関してはすでに報告されたいくつかの論文及びデータベースによる情報をもとに候補を絞り込む。 また、初年度に計画した野生型繊毛の環境による運動制御の解析が未完成であり、この原因が摘出した組織の培養条件にあると考えられる。したがって今後はこの培養条件を検討し、安定した測定・解析環境の確立を目指す。そのためには培養に最適化された条件からスタートするのではなく、生理食塩水やハンクス緩衝液のような無栄養状況を基に、ホルモン試薬や運動制御候補因子を添加し、繊毛運動への影響を測定することが望ましいのではないかと考えている。
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