2019 Fiscal Year Annual Research Report
イタリア未来派における機械と身体の融合としての〈踊る身体〉の表象分析
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18J01717
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横田 さやか 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 未来派 / 表象文化論 / 舞踊学 / イタリア / 身体 / 機械 / アヴァンギャルド / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
採用期間2年目となる令和元年度は、初年度から取り組んでいる一次資料の調査分析を継続しつつ、研究成果発表を積極的に進めた。論文発表1本、学会などにおける研究発表4本の成果を収めた。 研究課題「イタリア未来派における機械と身体の融合としての〈踊る身体〉の表象分析」に取り組むにあたり、未来派についての限定的で偏重した解釈から脱却し、未来派の新たな輪郭を描き出すことが最優先事項であった。令和元年7月-8月にイタリア国内の図書館やアーカイブ等にて関連資料の分析と先行研究の精読を進めた。その成果として「イタリア未来派研究と未来派の定義の変遷をめぐる考察」(『上智ヨーロッパ研究』第12号、2019年)に研究論文を発表した。 同じく昨年度から継続する課題として、航空技術の進歩を舞踊史に敷衍する考察を行なった。この論題については、令和元年3月にボローニャ大学において開催された国際学術会議にて研究発表を行なっており、本年度は、国際学術会議成果論集に寄稿する目的で研究論文を執筆した。さらに、考察の対象を未来派の周縁へ広げ、舞踊評論家としてのA.G.ブラガーリアを分析する研究発表を行なった(イタリア学会第67回大会、「舞踊評論家A. G. ブラガーリア-踊る身体の表象と舞踊のナショナリズム-」2019年10月26日、於鹿児島大学)。 本年度新たに着手した課題としては、未来派の男性主義的な言説とは相容れない、未来派芸術のジェンダーをめぐる両義性に着目し、文学、美術、舞台芸術などの領域横断的な考察を試み、研究発表に報告した。なお、ジェンダーをめぐる研究遂行の一部は、基盤研究(B)「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」(課題番号:19H01244 研究代表者:西岡あかね)からも助成を受けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、おおむね計画通りに進捗している。まず、本研究課題が対象とするイタリア未来派を論じるにあたり、共通認識として未来派の新解釈を定義することが急務であったが、昨年度より該当先行研究の総括に取り組んだ成果を本年度は研究論文にまとめ発表することができた。同じく、日本の関連学術領域に示唆を与えうる独創的な論考として、A.G.ブラガーリアの舞踊評論家としての姿を浮き彫りにし、〈機械〉から〈身体〉へと段階的に展開したブラガーリアの身体論をまとめ、学会発表として報告できたことも、計画に即した成果であるといえる。 また、遂行すべき課題のひとつに、国際的なネットワークを活かして研究成果を発表し、国外での関連領域における議論にも発信することが挙げられる。この点については、昨年度ボローニャにて報告した発表を成果論集に寄稿するべく論文に書き改め、予定通りに執筆を終えることができた。成果論集は、令和2年度内にイタリアで出版される予定である。 本年度、新たに取り組んだ課題である未来派のジェンダーをめぐる問題については、学会発表を含む3度の報告に研究成果を出すことができた。ダンサーをはじめとする女性アーティストの自立的な参与や、男性的というより両義的な身体表象など、議論の余地のないように思われた男性主義的未来派像に対し、むしろその多様性を視覚資料の分析や文学テクスト分析を手法として明らかにした。 以上の成果に対し、新型コロナウィルスの世界的感染拡大により、不本意ながら年度内に遂行することのできなかった課題が2点残された。これらの課題、イタリアでの2回目の資料調査と国内での学術シンポジウムにおける研究発表は、次年度に遂行することを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、一次資料調査と関連先行研究の精読を進めると同時に、研究成果発表を積極的に行う。まず、資料調査については、令和元年度に遂行することができなかった課題を終える必要がある。ひとつは、未来派研究においてもこれまで看過されてきた1920年代以降の女性アーティストの活動の実態を明らかにするべく、F. T. マリネッティと女性作家や女性画家の間で交わされた書簡を調査し、女性に活動の場を開いていたアヴァンギャルド運動としての未来派の側面を照査する。ボローニャにあるリダ・ボレッリの家財団アーカイヴやイタリア女性図書館を利用する予定である。さらに、19世期以降のイタリアの舞台芸術関連資料が所蔵されているニューヨーク公立図書館内Cia Fornaroli Collection, Walter Toscanini Collectionを利用し、20世期初頭に中央ヨーロッパを中心に隆盛したいわゆるモダン・ダンスがイタリアにも独自の潮流を生んだ背景を関連資料を証左に明らかにする。 研究成果発表については、最優先課題として、イタリア語で執筆した博士論文の日本語版の執筆を終え、出版することが挙げられる。次年度内に脱稿することが目標である。並行して、学会誌に研究論文を寄稿する。本年度イタリア学会にて報告した、舞踊評論家A. G. ブラガーリアについての研究発表を論文にまとめる。1910年代より写真や映画のメディアを介して身体の動きを研究したブラガーリアの手法が1920年代以降のかれの舞踊評論の基盤にあることを示し、その舞踊理論がファシズム期にナショナリズムのメディアとしての機能を担った可能性を指摘する。
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Research Products
(5 results)