2019 Fiscal Year Annual Research Report
菌寄生植物ランにおける難発芽性種子の発芽スイッチ制御機構の解明
Project/Area Number |
18J01755
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
三浦 千裕 鳥取大学, 農学部, 特別研究員(PD) (50758589)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2023-03-31
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Keywords | 菌従属栄養植物 / ラン科植物 / 土壌微生物相 / アンプリコンシーケンス解析 / 種皮 / 共生菌 / 病原菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では人工的に発芽させることが難しいラン科植物を材料として、(1) ラン自生地での土壌微生物相調査および発芽種子のトランスクリプトーム解析、 (2) 発芽に寄与する新たな微生物の特定と難発芽性に関与する遺伝子の特定を行う。これにより難発芽性種子の発芽のスイッチを入れる因子を明らかにし、発芽のスイッチ制御機構を分子レベルで解明することを目的として実施している。これまでに、野外に自生するキンラン (Cephalanthera falcata) を材料として、(1)-1 自生地における種子の発芽率測定、(1)-2 次年度に向けた自生地における種子の播種試験、(1)-3 土壌微生物相の解析、(2)-1 発芽に寄与する微生物の推定を行った。キンラン自生地土壌のアンプリコンシーケンス解析により、土壌微生物を網羅的に解析したところ、キンランの生育している地点と生育していない地点では土壌糸状菌相が明らかに異なることが明らかになった。この結果は自生地に播種したキンランの発芽率の結果と一致した。キンランの生育している地点には、外生菌根菌として知られている菌類が高頻度に検出された。また同サンプルを用いて土壌細菌相の解析を実施したが、本解析においてはキンランの生育している地点と、生育していない地点とで大きな違いは認められなかった。本年度は糸状菌相と発芽との関連性をより詳細に明らかにするため、シラン (Bletilla striata) と糸状菌のin vitro共生発芽系を用いて組織学的な解析を行い、シランの種皮には共生菌や病原菌を含む様々な菌の侵入を制御する役割があることを明らかにした。ラン科植物をはじめ、菌寄生的な植物 (菌従属栄養植物) の種子構造は共通する部分が多く、種皮の重要性は他の菌従属栄養植物にも普遍的である可能性が高いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はこれまでに、シラン (Bletilla striata) と糸状菌のin vitro共生発芽系を用いて、組織学的な解析を行い、シランの種皮には共生菌や病原菌を含む様々な菌の侵入を制御する役割があることを明らかにした。本研究は難発芽性種子の特性を明らかにする重要な知見となる。一方、本年度計画していた野外に自生するキンラン (Cephalanthera falcata) 周辺土壌の微生物相の反復実験およびキンランの発芽と強く相関すると予測された土壌微生物を用いた共生発芽試験は実施途中となっており、次年度以降に実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに実施した自生地における種子の発芽率測定の結果、キンランの親株周辺では種子が発芽しやすく、親株の生育していない地点ではほぼ発芽しないという傾向が認められたものの、親株から2.0 mの範囲内では発芽率に差が見られないことが明らかになった。そこで、土壌菌相の調査範囲をキンラン親株から 3.0 mまで拡大し、本年度以降解析を行う予定である。計画を改めた本実験については昨年度すでに播種試験を実施しており、埋土したシードパケットを本年度以降に回収し、発芽率の測定および菌根菌種の同定を行う予定である。 土壌菌相の解析ではキンランの生育している地点と、生育していない地点とで糸状菌相には大きな違いが認められたものの、細菌相には大きな違いが認められなかった。本年度以降の解析で、土壌微生物相の解析に加えて発芽種子、非発芽種子の微生物相解析やトランスクリプトーム解析を加え、糸状菌相と細菌相の関係性および発芽との関連性をより詳細に明らかにしたい。 昨年度実施することができなかったクマガイソウの自生地播種試験については、次年度以降、自生地播種試験もしくは、実験室内で実施できる共生発芽試験等で研究を進める。そのほか、本年度実施を予定していたキンランの発芽と強く相関すると予測された土壌微生物を用いた共生発芽試験は次年度以降に実施する予定である。
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