2018 Fiscal Year Annual Research Report
アジア圏からの社会運動論の刷新―生活史法による日韓台の「新しい社会運動」比較分析
Project/Area Number |
18J01843
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小杉 亮子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 学生運動 / 高等教育政策 / 科学技術政策 / 社会運動論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「新しい社会運動」論が西洋社会における近代化を前提としていることを問題として捉え、日本・韓国・台湾を対象に社会運動の歴史的事例に関する比較分析を行うことによって、アジア社会における社会変動と社会運動の変容に関する理論を構築することを目的としている。 1年目にあたる今年度は、①社会変動にともなう政治と社会運動の変容に関する社会学理論の批判的検討、②20世紀の日韓台における長期的社会変動に関する社会学関連文献の精読、③日本の事例に関する聞き取り調査と資料収集・分析、④韓国・台湾における予備調査を予定していた。 ①②については関連文献を読み進めた結果、日韓台の国家が近代化の過程のなかでどのように高等教育政策を構想し、実施したかに着目することによって、3社会における近代化の特徴を把握するという着想を得た。 次いで③については、東大闘争(1968~69年)に関する事例研究を進め、これまでの研究の成果を単著(『東大闘争の語り』新曜社)として刊行した。また、この成果を国際学会(5月ポーランド、2月インド)、シンポジウム(12月東北大学、3月東北大学、3月関西学院大学)などで報告し、フィードバックを得ることによって、次のような本研究の枠組みを構想することができた。それは、高等教育政策に着目して日韓台における近代化の特徴を把握し、大学制度や学術研究制度をめぐる学生や研究者による社会運動の形成・展開過程を検証することによって、近代化の進展と当該社会の社会運動との相互作用を明らかにする、というものである。 こうした見通しを得たことによって、日本の新たな事例として、戦後の科学技術政策にたいして異議申し立てをおこなった、1950~1970年代の科学者運動を取り上げることにし、調査を開始した。 ④については、③に注力したことによって今年度はほぼ進めることができなかったため、次年度の課題として残された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では日韓台の社会運動の比較分析を行うが、研究対象として新たに取り上げる韓国と台湾については、今年度は予備調査を進めることがほぼできなかった。同時に、これまでも研究対象としてきた1960年代日本の学生運動にかんする成果発表とフィードバックの検討をとおして、高等教育政策とそれにたいする学生や研究者の社会運動との相互作用を分析することによって、アジアにおける近代化と社会運動の相互作用を明らかにし、それをもとにアジア圏における「新しい社会運動」形成について考察しうる、という研究の見通しを得ることができたのは、今年度の大きな成果である。以上の理由から、研究計画より進捗状況はやや遅れているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、日韓台の社会運動の比較分析に向けて、韓国と台湾の事例研究および現地調査に注力する予定である。まず、欧米圏の東アジア研究の成果を最も多く所蔵している機関のひとつであるハーバード・イェンチン研究所で文献調査を実施し、韓国と台湾における近代化と高等教育政策について、その発展のプロセスの詳細な把握と年表作成を行う予定である。同時に、1980年代の民主化運動を常に視野に入れながら、大学制度や学術研究制度をめぐる学生や研究者の社会運動の歴史を紐解き、適切な事例を選定する予定である。 適切な事例を選定したのちは、韓国と台湾にそれぞれ一定期間滞在し、予備調査ののち、聞き取り調査と資料収集・分析からなる詳細な事例研究を実施する。韓国では、必要に応じて通訳を介し、運動参加者の生活史聞き取り調査を実施するとともに、自伝・手記からも運動参加者の生活史を収集し、補足的に分析に用いる予定である。また、聖公会大学民主資料館(ソウル)と民主化運動記念事業会(ソウル)で文書資料を収集・分析する。台湾についても、韓国の事例と同様の方針のもと、運動参加者にたいする生活史聞き取り調査と史料収集・分析を実施する。韓台いずれの事例においても、これまでの研究で培ったネットワークを活かしながら聞き取り対象者とのネットワーク形成を行う予定である。
|
Research Products
(9 results)