2019 Fiscal Year Annual Research Report
五蘊・十二処・十八界を軸とする有部範疇論の研究―「五位七十五法」観の再考に向けて
| Project/Area Number |
18J02114
|
|---|
| Research Institution | International College for Postgraduate Buddhist Studies |
|---|
Principal Investigator |
横山 剛 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 特別研究員(PD)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
| Keywords | インド仏教 / 説一切有部 / アビダルマ / 五蘊 / 十二処 / 十八界 / 五位七十五法 / 大毘婆沙論 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、五蘊・十二処・十八界を軸として、インド仏教の説一切有部における法体系の成立と展開を明らかにすることを目的とする。第二年度は、（1）有部の法体系の形成についての研究、（2）有部の法体系と大乗仏教の関係についての研究、という二つの方向から研究を進めた。
（1）の研究では、『大毘婆沙論』を中心に据えて研究を行った。テキスト研究では、同論の巻七十四における十二処の解説の後半部（大正蔵27, 381a9-383a18）、ならびに巻七十一における十八界の解説の前半三分の一（同, 366a3-370c29）を読解した。以上のテキスト研究の成果にもとづいて思想研究に取り組み、主に十二処を軸としながら『大毘婆沙論』に説かれる教理と六足論・発智論における教理の関係、『大毘婆沙論』以降の『阿毘曇心論』などの綱要書への教理の展開を分析した。その中でも、第二年度は諸法の解説と関係する経典引用に注目し、諸法の実在論証や分類といった点でそれらの引用が担う役割について重点的に検討を行った。
（2）の研究では、（A）中観派が説く法体系と有部教学の関係、（B）瑜伽行派が説く法体系と有部教学の関係、という二つの点から研究を進めた。（A）では、これまで取り組んできたチャンドラキールティ著『中観五蘊論』の研究を継続、発展させた。特に、初年度に行った有部の解脱に関する研究を基盤として、同論において心所法として説かれる解脱について考察を行った。（B）では、瑜伽行派のいわゆる「五位百法」と有部の法体系の関係について考察を行った。特にヴァスバンドゥの『五蘊論』に見られる有部的な傾向に注目して、著者の意図とその背後にある有部教学の基礎学としての性格について明らかにした。また、阿毘達磨集論研究会に参加し、『阿毘達磨集論』の翻訳研究を通じて、瑜伽行派が説く法体系の詳細について検討を行った。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
（1）有部の法体系の形成についての研究では、『大毘婆沙論』を研究の中心に据えた上で、十二処に重きをおいて研究を行った。この点については研究を予定通りに進めることができた。初年度と比較すれば、テキスト研究における遅れを大分取り戻すことができたが、以下に述べる瑜伽行派の法体系の研究が予想よりも大きなものとなったことが原因で、やはりテキスト研究に若干の遅れが見られる。最終年度である次年度には、十八界の解説の最後まで読解を完了できるように注意をしたい。また、有部論書の法体系と関係する経典引用について検討を行い、その成果を以下に述べる『中観五蘊論』研究と総合して、部派仏教研究会の会合において発表することができた点については、予想以上の進展があった。
（2）有部の法体系と大乗仏教の関係についての研究に関しては、大方予定通りに研究を進めることができた。（A）中観派が説く法体系と有部教学の関係については、『中観五蘊論』における解脱の理解を考察し、その成果を日本印度学仏教学会の学術大会において発表するとともに、その内容を論文にまとめて『印度學佛教學研究』に発表した。（B）瑜伽行派が説く法体系と有部教学の関係については、『五蘊論』におけるヴァスバンドゥの著作姿勢を考察し、その成果を部派仏教研究会および日本印度学仏教学会の学術大会（パネル発表）において発表するとともに、その内容を論文にまとめて『対法雑誌』に発表した。また、阿毘達磨集論研究会における翻訳研究の成果については、共著論文として『インド学チベット学研究』に発表した。
さらに、本研究の概要と成果の一部を大正大学綜合仏教研究所公開講座において発表した。
このように、予想しない進展が見られた部分や予定から遅れている部分もあるが、研究の進捗状況と研究成果から総合的に判断すると、本研究は現時点でおおむね順調に進展しているといえる。
|
| Strategy for Future Research Activity |
第三年度は、（1）有部の法体系の形成についての研究を完了させることを最優先の目標として、研究を進める。テキスト研究では、十八界の解説箇所の後半三分の二（大正蔵27，371a1-378b22）を読解する。思想研究では、十八界を軸として『大毘婆沙論』に説かれる教理と六足論・発智論における教理の関係、ならびに『大毘婆沙論』以降の『阿毘曇心論』などの綱要書への教理の展開を分析する。
以上の研究と並行して、（2）有部の法体系と大乗仏教の関係についての研究を進める。特に、これまで取り組んできた『中観五蘊論』研究の成果の中から、同論の全訳を出版することを予定しており、その準備を中心に研究を進める。また、国際的な発信力を強化するために、諸法の定義を中心に、同論の英訳にも取り組んでおり、その作業を継続したい。
第三年度は本研究の最終年度であるために、年度の後半にはこれまでの研究をまとめる時間を確保し、研究の内容を総括する。
|
