2018 Fiscal Year Annual Research Report
中近世スイスにおける都市と周辺地域の諸勢力―都市フリブールを事例にして―
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18J02130
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
神谷 貴子 愛知県立大学, 国際文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 市外市民 / スイス西部 / フリブール / 領域形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、15,16世紀スイスにおける都市フリブールと都市外部における諸勢力、とりわけ周辺地域の中小貴族との関係を考察したものである。本年度は主に研究課題A) 市外市民権による結びつきについて研究を進めた。 研究計画の予定通り、本年度は近世フリブールにおける市外市民の構成について、とくにスイス盟約者団加盟(1481年)から16世紀末までを研究対象とし、未刊行史料である市民登録簿の活字化と情報のデータ化を行った。この史料分析の成果としてとりわけ重要なのはフランス語圏からの市外市民の受け入れが15世紀末に増加して以降16世紀もなお継続されていた点である。なかには遠方のジュネーヴ市民を集団的に市外市民とした事例もあった。ベルンとフリブールによる軍事的圧力、また、宗教改革がスイス西部に広まりを見せるなか、カトリックの牙城たるフリブールとフランス語圏居住者が市外市民権を通して結びつく意義は、15世紀に農村領主支配からの脱却を目指したものとは大きく異なっている。 さらに16世紀に入って顕著になるのは、かつて市民権を保証する担保としての不動産を都市内に設定しなければならなかった制度がもはや機能しなくなったことである。元来は市内にある個人所有の家屋に担保が設定されていたため、市外市民と家屋所有者である都市内居住者との結びつきが垣間見られたが、そのような人的結合はもはや登録簿からは読み取ることができなくなり、むしろ市外市民と都市そのものとの直接的なつながりが明らかとなる。 本年度は現地での史料調査に合わせて、当地の専門家らの助言を得ることができた。日本で入手できる文献や史料、研究動向に関する情報は限られているため、次年度以降も現地での調査並びに専門家らとの面談を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の課題であった市民登録簿の史料分析は予定通り行うことができた。あわせて、本研究の直接的な目的ではないものの、比較対象として都市内に居住する市民についても史料分析を行った。 現地での史料調査も予定通り進めている。本研究の計画段階で予測していた通り、史料の分量が多いため、次年度以降も同様の史料調査を行う予定である。 ただ、史料に用いられている言語は当初の予想よりもフランス語とドイツ語が混在しており、書体も同様に複雑な変化を伴っていることが明らかとなった。また、日本で入手できる先行研究が非常に少なかったため、次年度に現地で史料調査をする際に文献も入手する必要がある。 史料分析に多くの時間を費やしたため、本年度は研究成果の発表には至らなかった。次年度以降、研究成果について論文投稿や口頭発表を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、次年度にまずこれまでの史料分析の成果をまとめ、論文の投稿ならびに口頭発表を行っていく。 その後、おおむね当初の研究計画に沿って、研究課題B) Burgrechtによる都市と周辺地域の中小貴族との結合の検討に進む。B)については、すでに現地での史料調査を進めている。大半の史料は未刊行史料であるため、史料の活字化と情報のデータ化を行い、Burgrechtをめぐる都市と周辺地域の関係性を明らかにしたい。 B)の検討後に改めて本研究を総合的に考察し、研究成果をまとめていきたい。
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