2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J10064
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
川島 拓馬 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 日本語史 / 文法史 / 名詞 / モダリティ / 接続表現 / 文法化 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語における名詞要素を含む文法形式をテーマとして、①文末名詞の形式化についてのケーススタディ、②逆接を表す「くせに」の歴史的変遷、③条件文として使われる「限り」の歴史的変遷、の三点について研究を進めた。 ①文末に名詞が位置する構文である「文末名詞文」について、「名詞+だ」がどの程度形式化するか、個別の事例に即して論じた。自身が既に研究を行っている「模様だ」「様子だ」を例に、前接語の形態や意味的特徴から両者を比較した。結果的に、「模様だ」が時代を経るごとに名詞としての性質を失い一語の文法形式として固まっていくのに対して、「様子だ」にはそのような傾向は認められず、名詞としての性質を強く保持していることを示した。 ②逆接を表す「くせに」の成立および歴史的展開について論じた。初期の「くせに」は「~であるものの常として」といった意味を表しており、これは名詞「癖」の意味が強く認められることから文法形式とは見なし難いことを述べた。18世紀末ごろから逆接的な解釈が見られ始めるが、そのメカニズムとしては、「癖」に語彙的に存在する否定的な評価性を軸に前件と後件の関係を矛盾と捉え直したと想定できる。また、「くせに」は当初は「名詞+の+くせに」の形しか見られなかったが、18世紀末から19世紀にかけて活用語を承ける例が見られるようになったことを明らかにした。 ③仮定条件を表す「限り」が歴史的に見てどのような変遷を辿っているかについて論じた。「限り」の用法を接続助詞的用法と副助詞的用法とに分けて考えると、中古・中世においては「全部、皆」の意を表す用法や程度・限定を表すような副助詞的用法が中心的で、接続助詞的用法は「時」の意を表すものに限られていたことが分かった。近代以降になると副助詞的用法は程度を表す以外は衰退した一方、否定形を承ける例が増加し、これによって条件形式と捉えられるようになったことを述べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は2018年度には時間表現(「際に」「場合に」)を扱う予定であったが、「際」の用例について検討したところ、思うように考察を進めることができず、「際」を研究対象とすることを断念した。その代わりとして、上記③で挙げたように「限り」を扱うこととした。それに伴い、研究の枠組みを「時間表現」から「条件表現」へと変更し、特に順接仮定条件形式を扱う方針を立てた。このような計画変更に伴って時間を割いたため、当初の計画より進捗は遅れていると言える。 しかし上記に示したような研究成果を挙げることができ、これは本研究課題全体にとって重要な進展であったと考えている。従って、引き続き研究を遂行していく上で大きく支障をきたすような計画変更ではないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように、研究計画に変更が生じている。それによって進捗は遅れ気味であるが、研究の方向性や解決すべき課題が変わったわけではない。寧ろ枠組みを「条件表現」とすることで逆接―順接の対立軸を立てることができ、見通しは明確になったと言える。また近代以降の新たな接続形式の成立という点で、新たな論点を得ることもできた。初年度を終えて研究方法に関しては特に問題は認められないため、2019年度も引き続き研究を進めていく。最終年度であるため、研究成果の取りまとめを行う予定である。
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Research Products
(4 results)