2018 Fiscal Year Annual Research Report
環境DNA分析を用いた遺伝的多様性検出:湖産アユの遺伝的個体群構造を明らかにする
Project/Area Number |
18J10088
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
辻 冴月 龍谷大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 環境DNA分析 / 遺伝的多様性 / ハプロタイプ / ミトコンドリアDNA / アユ / 定量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自身がこれまでに開発した環境DNA分析に基づく個体群内の遺伝的多様性検出のための手法について、(1)野外河川でその検出力を評価すること、および(2)生活史の異なる琵琶湖の陸封アユ集団間における遺伝的構造の比較へ適用することを目的としている。 (1)本手法の検出力を評価するために、琵琶湖からアユが遡上する安曇川にて表層水を採水し、500 mLずつ20枚のフィルタを用いてろ過を行った。アユに種特異的なプライマーを用いてミトコンドリアD-loop領域を増幅し、ハイスループットシーケンサー(HTS)による超並列塩基配列決定を行った。また、採水後には採水地点の上流に設置されたヤナで捕獲された96尾のアユを入手し、サンガー法によって組織DNAの塩基配列を決定した。両手法で検出されたハプロタイプを比較したところ、2/96尾以上の割合で捕獲個体から検出されたハプロタイプは、環境DNA分析により500 mLの水試料からほぼ全て検出できることが示された。 (2)琵琶湖の陸封アユには大きく分けて春に河川を遡上して上流で大きく成長する集団と、湖内に留まり成長したのち産卵期である秋に遡上する集団が存在する。集団間の生活史の違いを利用し、春(4月)および秋(9月)に琵琶湖の主要な流入河川の河口付近にて採水を行った。各季節の試料に含まれるアユの環境DNAを分析したところ、多数のハプロタイプが検出された。その一部は季節特異的な検出パターンを示し、集団解析により各季節の集団間に遺伝的集団構造の違いがあることが示唆された。さらに、PCRでのDNA増幅時に既知濃度の標準DNAを添加することによって、HTSによる網羅的な遺伝的多様性の定量に初めて成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度は研究課題(1)環境DNA分析を用いた遺伝的多様性検出手法の検出力検討について、すべてのサンプリングとデータ解析を完了することができた。本研究の成果は、現時点で複数回の学会大会にて発表を行ったほか、論文は近日中に国際誌へ投稿する準備が進んでいる。加えて、研究課題(2)琵琶湖の陸封アユにおける生活史の異なる集団間の遺伝的構造比較では、1年目に計画していた採水調査および捕獲調査、データ解析が全て滞りなく完了し、集団間に遺伝的構造の違いがあることを示唆する結果を得ることができた。また、当初の計画には含まれていなかった、標準DNAの使用による遺伝的多様性の定量化に成功した。「どんなハプロタイプがあるか」だけではなく、それらが「どれくらいあるか」という情報を得ることができるようになった点は、将来、本手法で得た遺伝的多様性の情報を集団遺伝解析に供することを可能にする。 上記の理由により、研究全体として「当初の計画以上に進展している」と評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究課題(1)については、論文の公表に向け編集作業を進める。研究課題(2)については、昨年度に引き続き、春と秋の採水調査を実施して各季節の集団間における遺伝的集団構造を明らかとすることを目指す。複数年の結果を踏まえて考察を行うことにより、より信頼性の高い成果を得ることができると期待される。
|
Research Products
(3 results)