2018 Fiscal Year Annual Research Report
認知科学的アプローチを用いた形態評価における力学的感性の解明
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18J10168
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
奥村 恵美佳 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 力学的感性 / 形態評価 / 設計力 / 形の認知 / 視覚的力学感 / sense of visual dynamics / 構造体 / 建築 |
Outline of Annual Research Achievements |
構造体を設計する上で、どのように構造体が自立するか判断する直感的な能力、すなわち、内在する力の流れや動きをイメージする能力が挙げられる。この可視化できない力のイメージの印象評価判断能力(力学的感性)は、どのような認知過程で情報処理され、どのように培われるのか。本研究では、人を対象とした実験を行うことで、力学的感性の認知メカニズムの包括的な解明を目的とする。 本年度では、力学的感性の概念について検討・考察、先行研究の傾向・問題点などについてまとめ、Emotional Engineering, Vol.7: The Age of Communicationの10章において発表した(Okumura & Yamanaka, 2019)。また、専門家の形態評価における力学的感性を探索するべく、テキストマイニングを手法とした研究を実施した。建築分野における様々な専門家(建築家・研究者など)が、建築を評価する際にどのような概念として「力学」を捉えているのか、そして、その思考プロセスが専門知識背景によってどのように異なるのかを調べることを目的とした。専門家が投稿している建築雑誌に着目し、本文中の自然言語情報をデータとして用いた。日本建築雑誌、および、英国を拠点とする世界規模の建築雑誌を対象とし、そのテキストデータに形態素解析を行なった後、共起ネットワーク分析、対応分析を行なった。これらの成果は、国際学会The Visual Science of Art Conference 2018において筆頭著者としてポスター発表を行い、現在、論文投稿予定である。さらに、これまでの研究結果を踏まえて、モノづくりに関連した異なる教育背景を持つ実験参加者を募り、形態評価の実験課題を実施し、属性間で比較検討するため実験実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに専門家の経験則によって研究されてきた力学的感性は、インタビューや個人の観察による考察など、取得可能なデータ数に制限があったが、年代・文化差など網羅できる大規模データを対象とするべく、テキストマイニングの手法を用いたことによって新たな視点から分析することができた。専門家の思考が反映されている建築雑誌に投稿された文章をデータとしたことによって、専門知識背景・文化差の違いを比較、検討することができた。現在、研究をまとめ論文執筆中である。 また、これまでに建築分野、芸術・デザイン分野、心理学分野などにおいて、力学的感性もしくは力学的感性と似た概念に関する研究が行われてきたが、共通認識の定義は調べた限りでは見つかっていない。そのため、「力学的感性」の英訳を「sense of visual dynamics」とし、先行研究をもとに定義を行い、著書で提案、発表した。 しかしながら、本年度計画していた、心理実験におけるデータ収集が予定していた人数に至らなかった。計画に至らなかった原因として、実験計画の再検討等に時間がかかったことが挙げられる。したがって、全体の達成度としては、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
テキストマイニング研究の論文投稿を終え、査読付き論文として発表する予定である。心理実験に関しては、今後もデータ収集を続け、算出した物理的な力学的合理性と主観的な力学的合理性のデータに加え、実験参加者の個人特性に関するデータなどを多面的に解析し、力学的感性の認知メカニズムの検討を行う予定である。
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