2018 Fiscal Year Annual Research Report
量的形質遺伝子座の集積による形質発現の安定性-トマトの早期開花性を例に-
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18J10247
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
中野 玄 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | トマト / 量的形質遺伝子座 / 開花日数 / 発芽日数 / 準同質遺伝子系統 / 葉間期 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は特別研究員の採用を受けるまでに,トマトの開花時期に関わる量的形質遺伝子座(QTL)解析を行った.その結果,第1,3,4,6,7染色体に開花時期を制御するQTLを各1つ検出し,第1,4染色体については,開花関連QTL近傍だけを野生種ホモ型にした準同質遺伝子系統(NIL)の育成を行った. 今年度は,第3染色体のQTLについて,置換断片の長さが異なる3つのNIL(81-18,81-28,81-64系統)を育成した.これらのNILsと栽培種を温室内で栽培し,播種から開花までの日数を調査し,栽培種と比較した. その結果,NILsの開花時期は栽培種と比較して,81-28系統は早く,81-64系統は遅くなり,81-18系統は栽培種との間に有意差は認められなかった.さらに発芽試験を行った結果,3つのNILsすべてで栽培種よりも発芽が促進されることを明らかにした.採用前のQTL解析では第3染色体には野生種由来の対立遺伝子が開花時期を遅延させるQTLしか検出されなかったが,本研究によって,これまでの研究では検出できなかった新たなQTLとして,野生種由来の対立遺伝子が開花時期を促進させるQTLと発芽時期を促進させるQTLを第3染色体に検出した.この結果は,園芸学会平成30年度秋季大会において発表した. さらに報告者はこれまでに,開花時期を制御する要因として1枚の葉が分化してから次の葉が分化するまでの日数(葉間期)に着目をし,第1染色体と第4染色体の開花時期QTLが野生種ホモ型になっているNILの花芽分化までの日数,第1花房が分化するまでの葉数,葉間期を栽培種と比較したところ,どちらのNILも栽培種より葉間期が短くなった.したがって,トマトの開花時期の制御には,葉数と葉間期が重要な働きをしていると考えられた.この結果は,トルコ・イスタンブールで開催されたIHC2018において発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は(1)第1,第4染色体の開花時期に関わるQTL(DTF QTL)の集積が個々のQTLの効果の和になるかを調査する点では,第1,第4染色体のDTF QTL領域が野生種ホモ型になっているNILのF2集団について,植物体の葉からDNAを抽出し,2つのNILで野生種ホモ型であった領域がすべて野生種ホモ型になっているF2を選抜,遺伝的に固定するために自殖・採種した.しかし,当初の実施計画に示したように,集団内でマーカーごとに野生種ホモ型と栽培種ホモ型,ヘテロ型にグループ分けする予定であったが,想定よりも組み替え率が低く,どのマーカーが最もQTLの座乗する位置に近いのかを明らかにすることはできなかった. (2)第3染色体のDTF QTL領域のみが野生種ホモ型となったNILと栽培種とで開花時期に差が見られるのかを調査した結果,3つのマーカー(CBF,LELAT59G,TGS0103)のうち,CBFのみが野生種ホモ型のNILは栽培種よりも開花時期が早く,LELAT59GとTGS0103が野生種ホモ型のNILは遅く,3つとも野生種ホモ型のNILは栽培種と同等の開花時期となった.さらに,発芽試験を行った結果,3つ全てのNILで栽培種よりも発芽時期が短くなったことから,これまでの実験では見いだすことのできなかった,新たな開花時期に関わるQTLと,発芽時期に関わるQTLを1つずつ明らかにした. 以上から,植物材料の育成や,栽培試験においては何ら問題なく,重要な成果が得られたと考えられる.しかし,本年度での研究業績としては,国際会議と国内学会において各1件の発表を行うにとどまり,学術誌へ研究論文を投稿することはできなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
計画通りに,第1および第4染色体の開花時期QTLの集積が実際にはどのような結果を表すのかを実証する. しかし,近年の遺伝子解析分野の技術進歩は目覚ましく,現状の技術力では研究職への就職は厳しいと考え,採用2年目は受入研究機関を変更し,当初の計画を遂行するだけでなく,新たな解析技術を学び,知識を得ることを計画している.
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