2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J10250
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
太田 奈名子 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 批判的談話研究 / 占領期 / メディア / メディア史 / ラジオ / 談話分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の前半は、修士論文の主要な章を査読ありの学会誌に投稿することに注力した。 占領期日本で放送されたドキュメンタリードラマ形式のラジオ番組『真相はこうだ』の分析は『語用論研究』で、投書回答形式の『質問箱』の分析は『メディア史研究』で刊行された。大東亜戦争観を否定しアジア・太平洋戦争観を提示したと指摘されてきた前者からはGHQによる日本占領を正当化する狙いも読み取れること、内容が不明であった後者には娯楽・宣伝・啓蒙の手法を混ぜ合わせながら非軍事化・民主化を説く巧妙な番組構成とレトリックが存在したことなどを明らかにした。 年度後半は、2016-7年に支援を受けた「NHK番組アーカイブス学術利用トライアル」で聴取したラジオ音源など未公刊一次史料を書き起こし、新たに収集したテクストの分析をもとに学会発表と論文執筆を行った。『真相はこうだ』の後継かつ『質問箱』の前身番組である投書回答形式の『真相箱』を分析し、新聞発表された「人間宣言」がラジオでも放送されていたことを指摘した論文は『マス・コミュニケーション研究』で刊行された。 論文発表を終えた3番組とは趣を異にする、街頭でのインタビューを放送した『街頭録音』の分析はまだ刊行できていないが、有楽町に集う街娼の声を録音した「ガード下の娘たち」の放送回の分析は20世紀メディア研究所で、東京裁判についての反応を銀座で尋ねた「極東国際軍事裁判の判決を聞いて」の放送回の分析はメディア史研究会で口頭発表を行った。 上記実績の他、博士論文で依拠する批判的談話研究の談話歴史的アプローチの英語教育への応用法についてまとめた論文がKomaba Journal of English Educationで、GHQが実施した日本人再教育のためのメディア統制の指針となったウォー・ギルト・プログラムに関する学術本の書評が『メディア史研究』で刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで内容が十分に明らかにされてこないままであった占領期ラジオ番組の分析を進めることだけに集中せずに、批判的談話研究という、放送テクストをラジオというメディアの歴史や占領下社会の状況などより大きなコンテクストに布置して、放送をめぐり絡み合う権力とことばの力学を浮き彫りにする比較的新しい理論的枠組みに依拠して分析を試みることで、メディアのことばを研究するための方法論的彫琢にも意欲的に取り組んだ。多領域にまたがる研究を奨励する批判的談話研究という枠組みの有効性を、言語学とメディア研究という異なる領域の学会誌で示せたことは、大きな収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、すでに刊行してきた論文の分析を修正しつつ博士論文の執筆を終えることと、海外のオーディエンスに向けて研究成果を発信することを念頭に置き、横断領域的な研究ネットワークに支えられてきた自身の研究をより広め、深めていくことを目標とする。
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