2018 Fiscal Year Annual Research Report
言語呼称の分裂の社会言語学的研究 ポーランドのマイノリティ言語を例として
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18J10252
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
貞包 和寛 東京外国語大学, 総合国際学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 社会言語学 / 言語政策論 / ポーランド / マイノリティ研究 / 多言語主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポーランドのマイノリティ言語政策をシロンスク語のステータスを通じて検証し、トロント大学で行われた学会 Language Policy and Planning Conference 2018 にて発表した(タイトル:“Language Status Planning in Poland and the Exclusivity of Multilingual Policy”)。同時にカシューブ語のステータスについても、ポーランドで行われた学会 International Scientific Conference POLYSLAV XXII にて発表した(タイトル:“The Intentional Distinction Between a “Regional Language” and a “Minority Language” in Poland’s Minority Act”)。また、日本言語政策学会学会誌『言語政策』に投稿した論文「ポーランドのマイノリティ法の批判的分析 シロンスク地方の言語問題を例として」が受理され、掲載された。これらの業績にもとづき申請者は博士論文を執筆し、2018年3月に学位授与された(タイトル:『言語の不可算性から見る言語学と言語政策 ポーランドのマイノリティ言語を事例として』)。その他の研究活動については以下のとおりである。
①『ウクライナを知るための65章』(明石書店、2018年)の第18章「ウクライナ・レムコ・ルシンの多層的な関係 国家の隙間に生きる人々と言葉」を執筆。 ② 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター開催のシンポジウム “Languages Rising above Empires, Blocs, and Unions 1918-2018”(2018年12月)において討論者として発表。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018 年度は博士論文の執筆を中心に研究を進めた。提出(2018 年 12 月)に先立って2回の学会発表と1本の論文執筆を行い、それらより得られたコメントを反映させることができた。また12月には北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターでの国際シンポジウムに臨み、ポーランドの出席者らより今後の研究方針などについて意見を得た。申請者の研究はポーランドの言語政策を「①政策内的問題」と「②政策外的問題」の2面から批判的に検証するものであるが、このアプローチに対して概ね肯定的な評価が得られたのは特に大きな収穫である。同時に、「多言語主義」を標榜する政策が実際にはマイノリティ言語を疎外する性質があることも実証することができた。 以上に鑑みて、2018年度の研究は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は以下の2点を中心課題とする。 ①ポーランドのマイノリティ言語状況の追跡調査 ポーランドのマイノリティ言語政策(2005年法令)は、ポーランド最大のマイノリティであるシロンスク人に政策的なステータスを与えていない。この措置に対して一部のシロンスク人は根強い不満を抱いており、ポーランド最高裁や欧州人権裁判所(ストラスブール)など、司法レベルでも係争が続いている。ポーランドの他のマイノリティの活動は全体的に穏健なものであるが、シロンスクはその政治的主張の急進性や数(ポーランドの総人口の約2%)を考慮すると、今後のマイノリティ政策に大きな変化をもたらす可能性が高い。したがって今後は、公的資料を含む最新の資料を適宜フォローアップし、ポーランドのマイノリティ言語状況の記述を続けていく。 ②「多言語主義」概念の比較研究 ヨーロッパ諸国の言語政策のなかには、マイノリティ言語保護の観点から「多言語主義」を標榜する政策も多い。ポーランドの政策もその一例である。しかし実際に政策レベルで多言語主義を実行する場合、各国内の社会的・歴史的事情が色濃く反映される。同時に「多言語主義」という概念は、カナダやオーストラリアで1960年代頃から提唱されてきたことからも分かるように、いくつか異なる発展経緯が存在する。しかし現状では、これら複数の文脈が整理されないまま「多言語主義」という用語が用いられていることも多い。また、いずれの言語を「多言語」のうちに含むかという意味では、政治的な言語分類が行われている。加えて、申請者がこれまでの研究で明らかにしてきたように、「学術的」言語分類も政治性を孕むものである「多言語主義」のこのような多義性、政治性は表層的には明らかではないことが多く、社会言語学的観点から批判的に分析する必要がある。以上の理由から、「多言語主義」概念の比較研究を今後の研究課題の一つに挙げる。
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Remarks |
東京外国語大学学術成果コレクションに収録された申請者の博士論文
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Research Products
(5 results)