2018 Fiscal Year Annual Research Report
画像と知覚の生態学 -ギブソンの情報理論、グッドマンの記号理論を通じて
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18J10301
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
豊泉 俊大 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | James Gibson / Nelson Goodman / 哲学 / 描写 / 芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究内容は、二つに大別される。まず、1)アメリカの心理学者ジェームス・ギブソンとアメリカの哲学者ネルソン・グッドマンのあいだで交わされた、画像的再現をめぐる議論について、論争の核心がどこに存するかをあきらかにした。ついで、2)グッドマンの芸術理論の意義を、かれの哲学とのかかわりにおいてあきらかにした。1)と2)の研究内容は、それぞれ順に、生態心理学会、文芸学研究会において発表し、論文にまとめた。 1)ギブソンとグッドマンの画像的再現をめぐる議論について、研究者は、両者の見解の相違が、かれらの立論の根本にかかわるものであることをあきらかにした。そのうえで、両者の対立を、中世以来の普遍の問題をめぐる論争の一変種としてあつかうほうがよいと提案した。研究の成果は、2018年9月8日に開催された、日本生態心理学会第7回研究発表会にて口頭発表し、発表内容は大会にて配布された学会誌『生態心理学研究』にて、プロシーンディングとして公けにされた。 2)グッドマンの芸術理論について、研究者は、グッドマンが芸術を論じなければならなかった理由を、かれ自身の哲学のありかたのうちに探り、グッドマンの哲学にとっての芸術の意義をあきらかにした。グッドマンは芸術を記号としてあつかうが、そのさい、それを記号でありながらもほとんど記号とはいえないような記号、すなわち、特殊なありかたをする記号として論じている。そのような特殊な記号のありかたが豊富にみられる芸術は、記号の一般理論を構想するグッドマンの哲学にとって、ぜひとも論じておかなければならないものであったと、研究者は論じた。研究の成果は、2018年12月15日に開催された第64回文芸学研究会にて口頭発表した。発表内容の一部を論文にまとめ、提出した。次年度に公けにされる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、ギブソンとグッドマンの画像的再現をめぐる議論を整理すること、グッドマンの芸術理論について、なぜグッドマンが芸術を論じなくてはならかったかをあきらかにすることを、研究の目的としていた。これらふたつの目的を、研究者は発表、論文投稿のかたちで達成している。よって、順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究者は、アメリカの心理学者ジェームス・ギブソンが提唱する実在論を、哲学に活かしたいと考えている。しかし、ギブソンは心理学者であり、哲学の議論を展開していない。ギブソンの実在論が哲学にもたらす帰結を見極める最良の材料となりうるのが、ギブソンとグッドマンとのあいだに交わされた、画像的再現をめぐる論争である。というのも、グッドマンは哲学者であり、哲学者としての立場からギブソンの議論に批判を寄せているからである。 昨年度はギブソン、グッドマンの論争の核心がどこにあるかをあきらかにした。ギブソンとグッドマンの議論は、実在論という一点において妥協を許さないものであるが、逆にいえば、そこさえクリアすれば、両者の議論は、両者それぞれにとって有益なものでありうる。グッドマンが実在論に寄せるいくつかの批判を精査し、それを批判的に乗り越えることができたらならば、ギブソンの実在論の哲学上の帰結を見極めることができるとおもわれる。いっぽう、ギブソンの実在論は、ときに唯物論や客観主義と混同される傾向にある。その傾向は、いわゆる郵便ポストのアフォーダンス、いいかえれば、人工物の意味ないし価値が環境に実在するかいなかをめぐる議論において、顕著である。したがって、ギブソンの実在論の可能性を十全に展開するには、ギブソンそのひとの議論を正しく理解したうえで、さらに、グッドマンから寄せられる哲学上の批判を乗り越える必要がある。グッドマンの実在論への批判の根拠はどこにあるか、郵便ポストのアフォーダンスは実在するとするギブソンの主張はどのように解されるべきか、このふたつを、今後の研究の推進方策とする。
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