2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J10348
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
森谷 亮太 宇都宮大学, 国際学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 色覚異常 / 色盲観 / 学校色覚検査 / 学校保健史 / 障害学 / 教育社会学 / 言説分析 / フーコー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、2003年の学校色覚検査廃止の前後で色盲観がどのように構築され、また変容したかを明らかにすることで、日本社会と「色盲」に関する新たな知見を得ることである。 本年度明らかになった視点は、主に以下の4点である。①1920年の学校色覚検査の導入に至る過程は、それまでの時期に学校健康診断制度において醸成された「公益的健康観」、および「疾病不在=健康観」を土台に、学生の色覚異常という特定の身体的特徴に注視する視線が構築されてきた時期であった。②1921年以降の学校色覚検査が制度的に規定された時期(強制的学校色覚検査期)では、石原式学校色覚検査表の利用や集団検診方法により、色覚異常が規格化された時期だった。具体的には、フーコーの生権力概念を援用し、この時期の制度的学校色覚検査は、「監視する階層秩序」を形成し、石原表と教師・クラスメートの視線が「規格化する制裁」を加えることで、「規格化の視線」が構築されていた。③戦後、学校保健法が施行されてからは、上記②の「規格化の視線」が、色覚異常当事者に主体化され、色覚異常当事者のライフストーリーで繰り返し語れてきた、「トラウマ体験としての学校色覚検査」という学校色覚検査観が構築されてきた。④2003年以降の学校色覚検査廃止期(選択的学校色覚検査期)では、上記③の主体化された「色覚異常を規格化する視線」が解体され、これまでと異なる「戦略」としての色盲観が構築されつつある。 これまで学校色覚検査に着目して色盲観の構築と変遷を明らかにした研究はなく、これらの視点は障害学や教育社会学において、色盲観の理解に新たな視点を提起するものである。特に、2003年以降の当事者の語りは、研究データの欠落を埋め、今後の色覚問題研究、及び障害学理論研究の発展の足掛かりとなる意義がある。以上の研究成果を、本年度は4つの国内学会報告と1つの国外学会報告で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は採用1年目にあたり、当初の計画に基づき主に「2003年以後の色盲観の構築と変容」について、一次資料の収集・分析に取り組んだ。また、前年度の課題としていた「2003年以前の色盲観の構築」についても必要に応じて継続して調査対象とした。以上の研究課題を踏まえて、本年度は概ね当初の計画通り研究が進められたと考えている。 具体的には、まず学校色覚検査の関連法制度、主に活力検査、学生生徒身体検査規定、学生生徒自動身体検査規定、学校保健法、学校保健安全法、について一次資料の収集、および分析を行った。また、学校保健史についても、主に日本学校保健学会誌「学校保健研究」を対象に、包括的に資料の収集と分析を行った。次に、主要な全国紙について、読売新聞(1874年から現在まで)、朝日新聞(1879年から現在まで)、毎日新聞(1872年から現在まで)、産経新聞(1992年から現在まで)の資料収集と整理を行い、現在は分析を進めているところである。また、当事者の自伝、小説や映画についても、資料の収集と一部分析を終えている。今後も、新しい資料が出版される場合もあるので、継続して資料の収集を進めていく予定である。高柳康世氏の全著作(本、および関連論文など)について、当該研究に関連するものはほぼ網羅的に収集を行い、また分析を行った。年度中に、高柳氏の学会報告があったため、当該発表に参加し最新の資料も収集した。日本色覚差別撤廃の会の会報について、ほぼ網羅的に収集を行い、同時に分析も行った。色覚異常当事者のライフストーリーインタビューについて、当初の計画通り4名のインタビュー協力者にインタビューを行うことができた。現在、主にフィールドノートを基に、分析を進めており、今後は適時書き起こし作業を行ないつつ、より精査な分析を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、主に研究課題「眼科医高柳泰世の色盲観の再検討」について分析を進めつつ、適時研究課題「2003年以後の色盲観の構築と変容」と「2003年以前の色盲観の構築」の資料収集と分析を継続することで、データの充足と分析のより一層の精査を図り、投稿論文、および学会発表を継続し、最終的な成果は博士論文としてまとめ、本研究目的を達成していく計画である。 具体的には、主に眼科医高柳泰世の著作の言説分析から、高柳の色盲観の構築と変容を明らかにし、これまでの色盲(観)構築理論に再検討を加える。並行して、研究課題「2003年以後の色盲観の構築と変容」と「2003年以前の色盲観の構築」についても、適時、資料調査、ライフストーリー収集・分析を継続することで、データの充足と分析のより一層の精査を図る。したがって 、国立国会図書館での高柳泰世や色覚問題関連の資料調達を継続する。最新の研究動向は、関連学会で資料収集を行う。分析結果は、障害学や ディスコース分析の研究会で報告し、多様な分析視角の獲得と分析精度の向上に努める。研究成果は、関連学会、及び国際学会の学術誌に投稿する計画である。9月には、それまでの学会報告や投稿論文を基に、博士論文としてまとめ、予備審査に申請する。博士論文として研究成果を公表することで、研究成果をより一般にも広く公開し、色覚異常者のより良い理解と国内外に広く研究の利に貢献することを目指す。
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