2018 Fiscal Year Annual Research Report
政党内閣期前後における宮中勢力の政治的台頭と明治憲法体制をめぐる政治構造の研究
Project/Area Number |
18J10439
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
十河 和貴 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 党弊 / 政党内閣制 / 行政制度改革 / 第二次若槻内閣 / 台湾総督府評議会 / 分化主義 / 明治憲法体制 / 挙国一致内閣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主題は宮中であるが、課題は宮中の機能性を明治憲法体制下における政党内閣制の政治構造の中に位置づけようとするものであり、宮中の視点のみで遂行し得るものではない。そこで今年度は、1.二大政党(政友会・民政党)それぞれの行政制度改革構想を明らかにすること、2.政党内閣制の特質が植民地の政治構造にいかなる影響を与えたのかをそれぞれ明らかにすることで、天皇・宮中の限られた政治関与が政治史上に与えた影響を立体化させることに努めた。 まず1.について、民政党の行政制度改革構想を、主に「党弊」への対応としての観点から検討した。具体的な内容としては、従来満洲事変や協力内閣運動などの影響から等閑視されてきた第二次若槻内閣を、行政整理の視点から本格的に検討することで、第一次加藤高明内閣以来の継続的課題(分権性の統合と、その過程で必然的に生じる「党弊」批判への対応)への対応を試みたものという、従来にない評価を与えることができた。これについては、近現代史研究会・日本史研究会近現代史部会と二回の国内学会発表を行った。 2.については、天皇・宮中が危惧していた植民地の「政党化」が、実態としていかなる作用を与えたのかについて、台湾総督府評議会の機能性の変容を中心として検討を行った。その結果、政党の統合を目的とした内地延長主義(経済・金融政策を事例として)の動きが、政党の思惑とは異なり、これとは反対の「分化主義」要請の「民意」を高めることとなり、総督自身もこれに拘束されるという事象が明らかとなった。これは、「敗戦と戦後政治体制構想」研究会で発表を行い精度を高め、論文化して「第四屆台灣與東亞近代史青年學者學術研討會」で国際口頭発表を行った。本論文を作成する過程で、防府市立防府図書館所蔵「上山満之進文書」、台湾での國立臺灣図書館・國史館臺灣文獻館での収集史料を活用できたのが大きな成果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題である「宮中」の政党内閣期における政治的位置づけを明らかにするために、「党弊」の問題を主軸として、他の行政機構の実体に踏み込んで検討できたのは、大きな成果であった。また、立憲民政党と台湾総督府という、二つのこれまで取り組んでこなかった視点から研究を行い、なおかつそれぞれ学会発表を行うことができた。台湾に関しては論文化することができ、民政党についても論文執筆の素地を整えることができたので、次年度初めには投稿することができる状態にある。これまでは主に天皇・宮中の政治的活性化という視点のみであったが、政党による行政制度改革の動向に対する検討を、もうひとつの主軸となる視点として据える見通しが立ったことが、何よりの成果である。これらの点は、当初の計画に対して若干の計画変更はあったものの、おおむね順調に進展していると評価できる。 ただ一方で、課題もいくつか残った。まず、立憲政友会の統治構想を明らかにしたうえで民政党と比較を行い、博士論文の一部を構成させる必要があるが、政友会については検討を行ったものの学会発表を行うまでには至らなかった。できれば本年度中に政友会についても業績を挙げることが理想であったので、今後の課題となる。来年度中には学会発表等を通して精度を高め、論文化していかなければならない。 また、視野を広げることができたのはよかったが、修士論文から昨年度にかけて検討を行ってきた天皇・宮中研究と、本年度に遂行した研究とを接合し、ある程度まとめることができれば、当初の計画以上に進展していると評価することができた。これに関しても、次年度の必須課題である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度の成果をふまえて次年度では、挙国一致内閣期における「重臣会議」と、斎藤内閣の行政制度改革構想を中心に検討を行い、政党内閣期との連続性を明らかにしていきたい。また、並行して第二次若槻内閣期民政党の行政制度改革構想について論文投稿を進め、さらには今年度にある程度の検討を行った田中内閣期の政友会行政制度改革構想および田中内閣期における天皇・宮中の政治介入原理を明らかにし、学会発表・論文投稿を進めて業績を積んでいきたい。 このように、今後の研究推進の中心は斎藤実・岡田啓介両挙国一致内閣期となる。これまでの収集史料に加えて、新しい史料収集が不可欠となる。新聞史料など二次史料の収集は当然ながら、それに加えて奥州市立斎藤実記念館に所蔵している入間野武雄(斎藤首相秘書官)の日記など、一次史料の収集にも精力的に取り組んでいく。天皇・宮中の政治的機能の延長上にある重臣会議構想、政友会・民政党の行政制度改革構想の延長上にある斎藤実内閣の行政制度構想についてそれぞれ検討を行ったうえで学会発表を行い、論文化していきたい。これらは博士論文のなかでも最終章となるため、これまでの研究との整合性を意識して、「党弊」の問題から政党内閣制と挙国一致内閣との連続性を明らかにしていく。 10月以降は博士論文の執筆を開始し、これまでの研究全体に対して精度を高めるとともに、序章・終章の執筆を行う。先行研究を網羅的に読み込み、自身の研究の位置づけをより広いスパンの中で行っていきたい。
|
Research Products
(4 results)