2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J10574
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Research Institution | Ochanomizu University |
Research Fellow |
村山 佳寿子 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 盲人音楽 / 箏曲 / 宮城道雄 / 点字楽譜 / 自筆譜 / 記譜法 / 西洋音楽受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、盲人箏曲家・作曲家である宮城道雄(1894-1956)の自筆点字楽譜(点字による自筆譜)から、作品群の通時的な様式変化や記譜法自体の変化等を見出すことによって、宮城の楽曲における西洋音楽的要素と点字楽譜利用との関係を明らかにすることである。 平成30年度は、宮城の自筆点字楽譜を2通りの視点によって検討し、記譜の特徴を捉えた。 (1)全資料を使用し、楽譜の構成や記譜に用いた筆記具等に着目:一般財団法人宮城道雄記念館資料室を定期的に訪問し、自筆点字楽譜のデータ化(スキャニング)を行いながら解読作業を行った。248点/257曲のうち、宮城の作品と確証のある173点/160曲について、作曲年に準じて配列し、楽譜の構成や記譜に用いた筆記具等に着目して分析を行った結果、その多くが宮城の作曲期間晩年のものであり、また、時期によって記譜に相違や変化を有することが確認できた。宮城の自筆点字楽譜を網羅的に扱った研究はこれまでになく、この基礎研究によって得られた新しい知見を『お茶の水音楽論集』第21号に投稿し、掲載が決定した。 (2)個別楽曲について墨字楽譜と比較し、手法記号や指遣い、曲中での記載内容等に着目:上記(1)での結果を踏まえ、宮城の自筆点字楽譜の中でも記譜の年代が古く、宮城の西洋音楽的要素が色濃く表れた最初の作品といえる、1918(大正7)年作曲≪秋の調≫の自筆点字楽譜を扱った。これを楽譜出版社「大日本家庭音楽会」より発行された墨字楽譜と比較し、記譜の検証を行ったところ、両者における記譜の相違を確認した。これらを考察した結果、≪秋の調≫の自筆点字楽譜は、西洋音楽で用いられる記号をそのまま使用したり、箏曲の手法を西洋音楽の特殊な記号に置き換えたりすることで、新たな箏曲を表現していることが明らかになった。研究成果を「東洋音楽学会東日本支部第107回定例研究会」等で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は計画に沿って、おおむね順調に進展している。 研究対象である自筆点字楽譜のデータ化(スキャニング)については、平成30年度中に全ての作業を完了させた。これによって全資料を俯瞰し、宮城の自筆点字楽譜における記譜の特徴を捉えることができた。 また、次年度に、点字で記された3冊の出版年代の異なる点字楽譜解説書を解読し、宮城の自筆点字楽譜の記譜法との関連性についての調査を計画していることから、当該年度は、その事前準備を行った。京都盲唖院発行『訓盲楽譜』については、1911(明治44)年に作成された亜鉛原版(経年劣化あり)が残されているのみであったことから、点字印刷(点字用紙にプレスする)を行ってから、解読する必要があった。そこで、京都府立盲学校資料室及び社会福祉法人京都ライトハウス情報ステーションを訪問し、研究協力者との打ち合わせの後、亜鉛原版からの印刷・製本を実現させた。大阪市立盲学校同窓会発行『点字箏譜解説』及び社団法人桜雲会発行・福家辰巳編『點字楽譜の書方』については、それぞれ、現在の大阪府立大阪北視覚支援学校資料室と筑波大学附属視覚特別支援学校資料室を訪問し、所蔵資料の確認を行った。 更に、点字楽譜利用による宮城の音楽活動から西洋音楽受容の手掛かりを得るために、静岡県浜松市と愛媛県今治市を訪問し、宮城より直接教習を受けた伝承者から、教習内容についての聴き取り調査を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、まず、前年度の研究成果における口頭発表をもとに論文を執筆し、『人間文化創成科学論叢』第22巻に投稿する。 研究対象である宮城道雄作品における自筆点字楽譜については、前年度にスキャンしたデータを用いて、一般財団法人宮城道雄記念館資料室にて、引き続き墨字楽譜と比較しながら、解読作業を行う。同時に、箏曲の奏法を表す「手法記号」を抽出し、各楽曲に用いられている奏法や和音の用いられ方、楽式等に注目しながら、記譜の検証を行う。墨字楽譜は公刊譜に加え、手稿譜のみが存在するものもあることから、それらの関係についても調査する。 点字で記された3冊の点字楽譜解説書『訓盲楽譜』『点字箏譜解説』『點字楽譜の書方』についても解読し、資料の記載内容と宮城の自筆点字楽譜における記譜法との関連性についての調査を行う。同時に、上記各資料の執筆者である鈴木米次郎、川端米逸・杉江泰一郎、福家辰巳についても、資料調査を行うために、筑波大学附属視覚特別支援学校資料室、大阪府立大阪北視覚支援学校資料室、京都府立盲学校資料室等を訪問する。 また、昨年度に引き続き、宮城より直接教習を受けた視覚障害を持つ伝承者(点字楽譜を利用)からの聴き取り調査を行う。主に、宮城を取り巻く盲人の弟子への教習内容についての詳細や、盲教育界での宮城の活躍等について尋ねることを検討している。
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Research Products
(3 results)