2018 Fiscal Year Annual Research Report
近世の津軽・和人地におけるアイヌ支配とアイヌ社会の主体的対応についての研究
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18J10750
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上田 哲司 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | アイヌ / 松前藩 / 弘前藩 / 蝦夷地 / 和人地 / 津軽 / 境界 / 近世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に遂行した中心的な研究としては、課題名の如く、①弘前藩による津軽アイヌ支配の態様についての研究、②弘前藩の支配を受けた津軽アイヌが、和式の名前とアイヌ式の名前を使い分ける対応を行ったことについての研究である。また、必要に応じて、幕藩制国家の直接支配が及んでいなかった蝦夷地にも視点を広げ、③将軍権力、松前藩、蝦夷地のアイヌ民族の三者関係史についての研究も行った。 こうした研究成果を基に、北海道大学に博士論文「十六~十八世紀における北日本の境界領域とアイヌ社会」を提出した。博士論文は、序章、第一部第一章~第五章、第二部第一章~第二章、終章という構成となっている。このうち、第一部第二章は①、第一部第四章は②、第二部第二章は③の成果を基に執筆した新稿である。また、序章と終章も新稿であった。 また、博士論文の執筆と並行して、これと密接に関わる研究報告二件を口頭で実施した。一つは、史学会大会(会場は東京大学本郷キャンパス)における報告「松前藩主宛歴代将軍朱印状の機能論的考察 ―第一次蝦夷地上知直前まで―」である。もう一つは、北大中世史研究会(会場は北海道大学札幌キャンパス)における報告「中世・近世前期における北日本の境界領域としての津軽海峡圏」である。 そして、③の研究成果をもとに、1月に査読付き学会誌に論文を投稿した。また、年度としては跨いでしまったが、4月にさらに②の成果に基づいた論文を査読付き学会誌に投稿しており、ともに査読を受けている。 また、こうした研究の遂行のため、北海道内、青森県内、東京都内の各史料収蔵機関を訪れ、原本調査を行い、史料撮影などを行った。撮影した史料の一部については、久保南ほか4名とともに翻刻を行ない、その成果を学術雑誌『道歴研年報』20号に掲載することが決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究課題として設定していた、弘前藩による津軽アイヌ支配に対する、アイヌ側の主体的対応についての研究の成果を、論文化し、公表の準備を調えることができた。いまだ査読中ではあるが、これにより、当初の計画をおおむね遂行した。加えて、当初の計画よりさらに視野を広め、蝦夷地のアイヌ社会と松前藩、将軍権力の三者関係史の研究にも取り組んだ。この成果も、学会報告の形で発表するとともに、論文として成稿し、査読付学会誌に投稿するに至った。 このほか、史料収蔵機関を積極的に訪れ、史料翻刻の成果も挙げた。 このような成果を挙げたことにより、申請書段階においては、2019年度に博士学位を取得することを予定していたが、一年早め、2018年度に取得することができた。 以上の経過を踏まえ、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
課題名にある如く、本研究の中心的な対象は、津軽・和人地(現北海道島の内、松前藩の支配領域/対義語は蝦夷地)のアイヌ社会である。2018年度においては、津軽のアイヌ社会の分析を中心に行なった。そこで、2019年度においては、和人地のアイヌ社会の分析を中心的な課題とする。さらに、必要に応じて対象地域の幅も広げ、蝦夷地のアイヌ社会の追究も進めてゆきたい。寛政11年(1799)に、蝦夷地上知が行われたことにより、幕藩制国家の政治的影響力は蝦夷地にも及んでいく。こうした政治権力の伸張に対し、蝦夷地のアイヌ社会側が如何に対応したか、という視点より研究する。こうした研究は、本研究の中心課題である、津軽・和人地のアイヌ社会が、弘前・松前藩の支配に如何に対応したかについて研究することと、強く連関するものである。研究成果は、成稿次第、順次、学会誌に投稿していく所存である。
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