2018 Fiscal Year Annual Research Report
アペリン受容体とアドレナリン受容体の二量体形成による血管異常収縮の解析
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18J11045
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
権 哲源 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | Gタンパク質共役型受容体 / アペリン受容体 / アドレナリン受容体 / 血管収縮 / 冠動脈収縮 / 遺伝子欠損マウス / ゲノム編集技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
血管は血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の2つの細胞から構成されている。中でも、我々が注目しているアペリン受容体(APJ)は、血管内皮細胞における血管拡張作用が広く研究されている一方で、血管平滑筋細胞における役割は不明であった。そこで、本研究では、血管平滑筋細胞特異的にAPJを過剰発現したマウス(SMA-APJ)を作製し、血管平滑筋細胞APJと血管収縮に焦点を当てた解析を行っている。 昨年度までの研究において、アドレナリン受容体アゴニストのノルアドレナリンやフェニレフリン、およびアドレナリン受容体の阻害剤を使用した薬理実験から、アペリン誘導性の血管異常収縮に対するα1Aアドレナリン受容体(α1A-AR)の関与が示唆されていた。しかし、これら生理活性物質は、いずれもアドレナリン受容体の「α1サブタイプファミリー」に作用する可能性があり、α1Aアドレナリン受容体の関与を直接的に断定するものではない。そこで、本年度は、α1Aアドレナリン受容体の選択的アゴニストであるA-61603を活用し、SMA-APJに対してアペリンとA-61603を同時投与した場合でも、血管の協調的な収縮が見出されることを明らかとした。さらに、この協調的な収縮が、SMA-APJ/α1A-AR-KOマウスにおいて有意に消失したことから、血管平滑筋細胞APJが担う血管異常収縮に対する、「α1Aアドレナリン受容体の関与」を断定できた。アドレナリン受容体は9つのサブタイプを有するGPCRである。複雑な血管組織・タンパク質が相互に作用する血管収縮に対し、1つのGPCRサブタイプの役割を断定できたのは、大きな進捗であったと考える。 以上の研究成果に併せて、本年度は、国際学会(ポスター1件)と国内学会(ポスター2件)での発表を行った。さらに、J. Biochem誌に第五著者として研究成果の一部が掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画には、APJとα1A-ARが担う血管異常収縮について、細胞内シグナルに注目した研究を進める旨を記載した。実際に、本年度の研究の中で、「マウス血管平滑筋から単離した初代培養細胞」「培養細胞株」および「血管組織そのもの」を利用した血管収縮関連因子の発現変化に取り組み、血管収縮関連の目的タンパク質の検出系を確立中である。細胞内シグナルの検出については、引き続き検討を重ねている段階である。 一方で、<研究実績の概要>欄で記載したように、単離した血管組織を用いたex vivo解析に関しては、概ね順調に研究を進行させることができた。α1A-ARの選択的アゴニストおよび遺伝子欠損マウスを用いた研究により、α1A-ARが血管異常収縮に関与することを断定できたのは大きな進捗であったと考える。さらに、マイクロフィルを用いた冠動脈造影に関して、冠動脈の局所でしか観察できていなかった従来の観察系を改良し、右冠動脈全体の観察を可能とした。冠動脈の全体像を把握する観察手法としては、Micro-CTを用いたものや、多光子顕微鏡を活用したものが挙げられるが、これらの方法はいずれも、大規模な観察装置を必要とする。一方で、今回、独自に改良した観察系では、実体顕微鏡を用いた観察が可能であるため、より簡便に右冠動脈の全体像を把握することができる。今後は、この観察系を用いて、より鮮明な冠動脈像を撮影し、冠動脈攣縮現象に関する研究を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、胸部大動脈の収縮における両受容体の機能的相互作用の重要性を示唆できた。一方で、血管は組織ごとに、構成されるタンパク質や細胞、生理的機能が異なるため、胸部大動脈から得られたデータだけで、冠動脈の攣縮現象を解明することはできない。そこで、<現在までの進捗状況>欄にも記載した通り、我々は冠動脈の局所のみしか観察できなかった従来の観察系を改良し、右冠動脈の全体像を鮮明に観察する手法を新たに確立した。 この観察系を活用することで、今後は、アゴニスト投与時のSMA-APJおよびSMA-APJ/α1A-AR-KOマウスの冠動脈標本を作製し、狭窄現象に注目した観察を行う。「冠動脈におけるα1A-ARの関与」の検証に加えて、必要となれば、アドレナリン受容体阻害剤や、冠動脈攣縮因子(Rho/Rho-キナーゼ)の阻害剤投与時の観察も行い、冠動脈攣縮におけるアドレナリン受容体の重要性について研究を進める予定である。 また、SMA-APJは世界初の冠動脈攣縮モデルマウスとなりうるため、血管攣縮に関連する分子機序を探索する予定である。当研究室には、マウス臓器を用いた次世代シーケンス解析の豊富な実績があるため、血管異常収縮を誘導したSMA-APJマウス血管からRNAを単離することで、血管異常収縮の前後でダイナミックに変動する遺伝子群を同定可能である。本研究成果は、血管平滑筋 APJが担う血管収縮イべントの詳細を明らかにするだけでなく、将来的に、血管攣縮が引き起こす致死的な循環器疾患への新規治療法の開発に貢献するものと考える。
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Research Products
(4 results)