2018 Fiscal Year Annual Research Report
〈意味産出としてのリズム〉分析手法の確立-メショニックのリズム論を中心に
Project/Area Number |
18J11093
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森田 俊吾 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | アンリ・メショニック / リズム / 韻律学 / フランス文学 / フランス詩 / 聴取 / 文学理論 / 詩学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの詩人・翻訳家・言語理論家であるアンリ・メショニックのリズム分析技法を、既存の韻律学等の手法を取り入れながら高めていくことを最終目標としている。 今年度は、メショニックのリズム分析技法を明らかにする課題を遂行すべく、主に以下の2つの研究に取り組んだ。
(1) メショニックの全著作を網羅するための資料調査:メショニックのリズム論の全体像を把握するために、雑誌掲載論文や講演録、草稿等の全資料の調査を行った。資料の多くは、海外の図書館・書店から取り寄せることができた。一部絶版により入手が困難なものについては、サン=ドゥニ新聞社をはじめ、所有者に直接コンタクトを取り、入手することができた。草稿資料調査には、主にパリの国立図書館(BnF)及び、カーンの現代文書資料研究所(IMEC)を利用した他、トゥールーズのアルノー・ベルナール文化会館に直接訪問し、彼の講演録を収集した。前者の調査では、アポリネールらの詩にリズム分析が施された書き込みを発見し、その分析手法の生成過程を知ることができた。後者の調査では、クレオール作家ラファエル・コンフィアンとの対談をはじめ、貴重な議事録が発見された。こうして発見された資料は、メショニックのリズム分析手法を解明する上で役立つだけではなく、20世紀フランス詩の現況を証言する資料としても有効である。
(2) メショニックのリズム分析技法を解明するため、彼の詩人論を中心に批判的に考察:具体的には、フィリップ・スーポーや、アドニス、マリーナ・ツヴェターエヴァの詩人論から、彼のリズムに関する思考ならびにリズム分析の手法について考察し、研究発表を行った。具体的には、リズム要素と呼ばれる、隣接アクセントや、子音の反復といった要素への着目を、それ単独で読み解くのではなく、常に一つの作品全体との関係の中で考察していく様態を分析手法の核心として提示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究(1)では、メショニック研究者たちからの協力を得られた上、交渉も問題なく行えたため、当初の計画を上回る量の文献の収集に成功した。メショニックの公表された文献の一覧表は既に2つのものが公表されているが、本研究では、これら2つの一覧を元にし、双方の不足分を補う形で、文献の網羅を行うことにした。現時点で判明している公表された文献の数は、翻訳や二次掲載等も含め、942項目あり、そのうち801項目をデータ化することに成功した。なお、現時点で未特定の文献は34項目あるが、その殆どがヘブライ語やアラビア語で訳された二次文献であるため、本研究を遂行する上で妨げになるような要素は殆どない。そのため、リズム分析手法調査の為にとりわけ必要な、詩人に関する言及がある論文については、全て網羅することができた。しかし、草稿に関しては全文献が網羅できたわけではないので、当初の計画とは異なり、次年度以降も調査が必要になってくる可能性が考えられる。
研究(2)では、メショニックのリズム分析手法を個々の詩人論から取り出すことができた。その中で、メショニックが詩全体を検討しなかった結果、リズムの分析が不十分な箇所があった。そこで、既存の韻律分析形を用いて、各韻律のアクセント・音節数も再分析を行ってみた。すると、詩節の前半部分と後半部分で明らかな音調の変化が生じていたことがわかり、リズムの意味産出機能とも大きく関わっていたことがわかった。こうした分析手法の改善を図る作業は、次年度の計画に含まれているため、この成果が次年度以降の計画を遂行する上での大きな手がかりとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、前年度で見つかったメショニックのリズム分析手法で不十分な点を、最近の韻律法や統語法の研究を駆使して補強し、リズム分析の一般モデルのひな形を提示する。
2年次前半は、手法の補強作業を行う。これまでの研究で、リズム分析手法、とりわけメショニックが仔細な分析を行ったユゴー、ボードレール、マラルメ、クローデル、アポリネール、エリュアールという6人のフランス詩人を主な研究対象とする。韻律学については、J-M. グヴァールや M. ミュラを参考にし、統語論はJ-L. シス、J. デッソンらの研究を主要な参照先とする。これらの研究でもメショニックの名は挙げられているが、彼のリズム分析手法にまで踏み込んだものはない。
2 年次後半は、上記の分析を補強することで得られた手法が、当初のメショニックが提示したものと比べ、どのように改善されたかを明確化し、実例を挙げながら立証していく。この作業を通してリズム分析手法の精度をより高めていく。 また、残りの文献収集作業も継続して行う。草稿資料を扱うIMECが、ポータルサイトを開設したため、収集が比較的用意になると考えられる。さらに、今後の翻訳理論への応用研究に備え、日本語の諸法則の先行研究も適宜参照していく。具体的には、昨年度の脚韻論の研究を推し進める形で、フランス語の詩句末に見られる開音節/閉音節の組み合わせによるリズムの意味生成が、開音節中心の言語である日本語の詩においてどのように適用可能かを試みる。
|