2018 Fiscal Year Annual Research Report
ジャン=ポール・サルトルにおける「約束された地」としての文学論
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18J11598
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 大聡 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | サルトル / ジャン=ポール・サルトル / フランス文学 / ヒューマニズム / ブリス・パラン / 1968年5月 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画通り、サルトルの文学論の体系化および文学史的位置づけを目指した。初期の文学論については、1932-33年のル・アーヴル講演についての研究を行い、サルトルが現実の全体性を文学によって表現することを目指していたことを明らかにした。また、権利者の承諾を得て講演の未公刊部分を参照、フランス国立図書館所蔵のシモーヌ・ジョリヴェ書簡などを判読することで、一般にはアクセス困難な初期サルトルの実像を把握するよう努めた。 さらに、サルトルにおける文学論と言語論の結びつきを明らかにすべく、1944年の批評「往きと還り」を手掛かりに、哲学者ブリス・パランの言語論との比較を行った。そこで明確になったのは、第一次世界大戦後における人間の状況を言語への関係から解明しようとしたパランの議論の読解によって、サルトルが第二次世界大戦後の人間と言語の関係を再規定しようとした、という事態である。これによって、戦後サルトルによるヒューマニズムの引き受けが、両大戦間期における作家と言語の問題を反映したものであることが明らかになり、これまであまり注目されてこなかったサルトルと文学史の関係を論じるための視座が得られた。 同時に、日本におけるサルトル受容の研究を行った。主に日本のサルトル研究者がその思想をどう受け止め、日本の状況の分析・介入に用いたかという点に着眼したが、その準備のため、1966年におけるサルトルの日本来訪に関する資料や、日本で行った知識人についての講演を読解することもできた。なお、当初の計画にはなかったが、1968年5月の学生・労働者の運動が50周年を迎えた2018年にどのように論じられたかについてリサーチを行った。これは今年度の研究計画に直接関係するものではないが、前述のサルトルの知識人論が変化する契機となったのがこの1968年であるため、後期サルトルにアプローチする有益な出発点になるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は学術論文2点、国際学会での研究発表2点、雑誌論文1点、翻訳1点を公表するなど、充実した研究活動を行った。 初期サルトルにおける文学論については当初の計画通り進展した。とはいえ初期の文学信仰は、それ以後サルトルが自ら格闘し乗り越えようとする出発点であるため、今後も精緻に解明してゆく必要がある。とりわけそれを『嘔吐』にまで至る理論的・実践的な思索の過程として論じていく必要があるが、『嘔吐』については以前一度発表を行ったことがあるもののまだ活字化していないため、次年度の課題として残されている。 また中期以降の著作については、今年度遂行したブリス・パランとの比較を通して『文学とは何か』(1948)を読解するための手がかりを得たものの、同時代の文学的・政治的状況との連関からの理解はまだ不完全なものだと認識している。とはいえ、戦間期の経験の超克という観点からサルトルの文学史的位置づけを理解するという視座はすでに得られたものであるため、今後はシュルレアリスムや『新フランス評論』の作家・批評家たちとの関係を含めて議論を深化させていくことが課題になる。当初予定していた『アルブマルル女王』、『言葉』の読解については大きな成果を出せていないが、先行研究を踏まえながら今後も検討を継続させてゆく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の進捗状況を基に、サルトルの文学作品・文学論を「約束された地としての文学」というテーマによって総合的にまとめてゆく。 具体的には、まず2019年に公刊されたサルトルのイマージュ論(1927)を精読することで、これまで一部を除き明らかでなかった初期サルトルの想像力論の展開を把握し、それが『嘔吐』の執筆において果たした役割を明らかにしたい。また、現在読解を進めている旅行記『アルブマルル女王』、自伝『言葉』が、『嘔吐』との連関でどのように位置づけられるかを明らかにしていきたい。
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Research Products
(5 results)