2018 Fiscal Year Annual Research Report
河川水害リスクの地理的偏在構造の定量的把握と形成メカニズムの解明
Project/Area Number |
18J11683
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Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
山田 真史 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 氾濫解析 / リスク分析 / 水害リスクカーブ / 確率的リスク特徴 / 水害リスクの地理的構造 / 水害地形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は①回帰分析による水害リスクカーブの多領域での算出と比較,②反復氾濫解析による水害リスクカーブの地先スケールでの算出とその地理的構造の分析,を行った. ①これまで水害リスクカーブは治水計画の策定・検討時に各水系で個別に算出されるに留まり,確率的リスク特性の地域差や多様性については議論が欠けていた.本研究は,検討長期の水害被害記録である水害統計に,回帰的なリスクカーブ算出手法であるFrequency-Damage法(FD法)を適用し,(a)一級水系流域スケール,(b)市町村スケールのそれぞれで水害リスクカーブを算出した.(a)では,関東・南東北地方の流域と九州・北海道地方の流域でリスクに寄与する災害規模が異なるなど,流域スケールの確率的リスク特性の地域性の存在を明らかにした.(b)では,FD法の小スケールへの適用性を向上させた改良FD法を提案し,市町村スケールでの確率的リスク特性を回帰的手法から検討する可能性を示した. ②地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)をバイアス補正した1500年分の降雨データを入力とし,降雨流出氾濫一体解析モデルRRIを用いて,吉野川右岸領域を対象とした反復氾濫解析を行い,30mメッシュの地先スケールでの水害リスクカーブを算出した.続いて,各セルのカーブの類似性に基づいた構造化手法を提案し適用することで,谷底平野区間では上流から下流へ向けて確率的リスク特性が変化するという構造を,氾濫原区間では本川支川及び旧河道との距離に応じて確率的リスク特性が変化する構造を明らかにするとともに,定量的な確率的リスク分析の観点から流域の地理的構造を議論する枠組みを提示した.また,地質図・地形図や歴史資料の分析から,各区間での水害リスクの地理的構造の成立には,地質に規定される地形的特徴と歴史的な河川整備が重要な要因であることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に取り組んだ課題のうち,長期的な水害記録である水害統計を用いた回帰的な水害リスク分析については,一級水系流域スケール・市町村スケールの異なる2つの解像度での適用が完了し,当初の予定通りに進捗している.特に一級水系ごとの確率的リスク特性の差異に関する知見は,雨量・流量の再帰年を用いて画一的に評価されている現在の治水計画目標について,確率的リスク評価の観点からその妥当性や流域間の整備水準を議論する上での基礎的な情報を提供しており,社会的に価値が高い成果と考えている. 一方で,反復氾濫解析を用いた地先スケールでの水害リスクカーブの算出については,氾濫解析の計算負荷が当初想定していたより大きく,計算資源が不足したため,堆積岩を主体とした流域である吉野川流域の谷底平野・氾濫原領域についてのみの検討に留まった.当初の予定では地質・地形条件が異なる複数の領域について反復氾濫解析をまず実施し,その後に各対象領域に関する現地調査や文献調査を行う予定であったが,前述の問題を受け順序を変更し,吉野川流域の対象領域への現地調査・文献調査を先に実施した.これと並行して,複数の対象領域に関する同様の解析の準備が完了しており,持ちうる計算資源をフル活用しながら反復氾濫解析を進めている. 上述の経緯の通り,順序の変更があったものの,研究全体としては「2.おおむね順調に進展している」と考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は反復氾濫解析による地先スケールでの水害リスクの算出を,吉野川水系での対象領域と地質・地形条件が異なる複数の領域について集中的に実施する.必要となる計算資源についても,所属研究機関の共用サーバ等の利用を通じて確保する予定である.また,これらの対象領域に関する地質図・地形図や歴史資料の分析,現地調査や住民対象のインタビュー等を平行して行い,各対象領域に関する水害リスクの地理的構造の成立過程とその要因について,より包括的な記述を目指す.
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Research Products
(5 results)