2018 Fiscal Year Annual Research Report
神経幹細胞の発生段階依存的な外部刺激応答性を規定するエピジェネティクス機構の解明
Project/Area Number |
18J11751
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
竹生田 淳 九州大学, 医学系学府, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
|
Keywords | 神経幹細胞 / エピジェネティクス / BMP / 神経発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は液性因子である骨形成因子(BMP)が胎生中期神経幹細胞をニューロンへ誘導する一方で、胎生後期神経幹細胞をアストロサイトへの分化を促進するという性質に着目し、本研究を開始した。採用開始時点では、BMPシグナル下流の転写因子であるリン酸化Smad(P-Smad)の結合領域の変化に伴い、P-Smadは胎生中期ではニューロン、後期ではアストロサイト分化に重要な遺伝子を標的とすることが明らかとなっていた。 そこで平成30年度は、発生段階依存的なP-Smadの結合領域変化にエピジェネティクス機構が関与しているかを調べるため、以下の様に研究を展開した。 全ゲノムDNAメチル化データ(PBAT)を用いた解析では、胎生中期に特異的なP-Smad結合領域は胎生中期及び後期を通じて低メチル化状態が維持されていたが、一方で胎生後期に特異的な結合領域では胎生中期から後期にかけて脱メチル化が進行していた。また、転写因子等の結合が可能なオープンクロマチン領域をATAC-seqにより調べたところ、胎生中期及び後期に特異的なP-Smad結合領域は、それぞれの結合時期でより開いた状態であった。 さらに、胎生中期及び後期に特異的なP-Smad結合領域に含まれるモチーフを解析したところ、胎生中期ではSox11やBrn2といったニューロン分化に関与する転写因子が、胎生後期ではグリア分化に関係するNfiaやSoxEファミリー転写因子の結合配列が頻出した。これらの因子が結合領域の変化に関与する可能性を考え、相互作用を免疫沈降法により調べたところ、Smadとの結合が確認された。 以上より、平成30年度はP-SmadはDNAメチル化の認識やパートナー転写因子の変換により標的遺伝子を変化させ、胎生中期及び後期の神経幹細胞の分化能変化(BMP応答性変化)を引き起こしているということを示唆する重要なデータを得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究進捗状況の概略は以下の通りである。胎生期神経幹細胞のBMPへの応答性が発生段階により異なる原因として、発生段階によりP-Smadの結合領域が変化すること、またそれに伴って標的遺伝子も変化することを明らかにした。 次に、P-Smad結合領域の変化にエピジェネティクス機構の関与を想定し、以下の解析を行った。DNAメチル化データ(PBAT)の解析では、胎生中期に特異的なP-Smad結合領域は胎生中期から後期まで低メチル化状態が維持されていたが、一方で胎生後期に特異的なP-Smad結合領域は脱メチル化が進行していた。また、オープンクロマチンを同定できるATAC-seqによる解析では、時期特異的なP-Smad結合領域は、それぞれの結合時期でより開いた状態であった。さらに、P-Smad結合領域のモチーフ解析を行ったところ、胎生中期ではニューロン分化に関与する転写因子が、また胎生後期ではグリア分化に関係する転写因子の結合配列が頻出した。そこで、P-Smadと相互作用するパートナー転写因子が自身の結合配列近傍にP-Smadをリクルートする可能性を考え、免疫沈降法を行ったところ、Smadとの相互作用が確認された。以上のことから、P-SmadはDNAメチル化の認識やパートナー転写因子の変換により標的遺伝子を変化させることにより、胎生中期及び後期の神経幹細胞の分化能変化(BMP応答性変化)に寄与していると考えられる。 一方で、候補因子が得られない場合を想定して検討していたenChIP法は、標的領域を免疫沈降することが困難であった。上述の候補因子が目的の因子でなかった場合は、enChIP法の代替法(今後の方策に記載)を予定している。 しかしながら、平成30年度はP-Smad結合領域の解析と候補因子を選出できたことから、概ね期待通り研究が進展したと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果から、P-SmadはDNAメチル化の認識やパートナー転写因子の変換により標的遺伝子を変化させることにより、胎生中期及び後期の神経幹細胞の分化能変化(BMP応答性変化)に寄与していると考えられる。 そこで、平成31年度は以下のように研究を進めていく予定である。まず、胎生中期及び後期の神経幹細胞において候補因子の過剰発現やノックダウン実験を行い、BMP刺激による分化誘導に変化が生じるかを調べる。変化が認められた場合には、候補因子の過剰発現及びノックダウン時のP-Smad結合領域や結合量の変化、エピジェネティクス修飾等を調べることにより、候補因子がP-Smadのリクルーターとして機能またはP-Smad結合領域のエピジェネティクス変換因子として機能する可能性を検討する。また、実際に候補因子の結合が標的遺伝子座で認められるかをChIP-qPCRで確認する。 上記の実験により、現時点での候補因子の中からP-Smadの結合に発生時期及び領域特異性を与える因子を見出せない可能性も想定し、採用時よりenChIP法の検討を行ってきたが、標的領域を免疫沈降することは困難であった。そこで、目的の因子が得られない場合は、 胎生中期及び後期の神経幹細胞を用いて、P-Smadを免疫沈降後に質量分析を行い、P-Smadに結合するタンパク質の中から候補因子を選出し、上記の実験を行う。 これらにより、P-Smad結合領域に真に発生時期及び領域特異性を与える因子を同定し、胎生期神経幹細胞の分化変換機構の解明を目指す。
|
Research Products
(3 results)