2018 Fiscal Year Annual Research Report
Application of plant hemoglobin for delayed nodule senescence and acquired environmental stress tolerance.
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18J11872
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
福留 光挙 鹿児島大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ミヤコグサ / 根粒菌 / 一酸化窒素 / 植物ヘモグロビン / 窒素固定 / 根粒老化 / 環境ストレス / ストレス耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ミヤコグサの植物ヘモグロビン(LjGlb1-1)の一酸化窒素(NO)除去能に着目し、「老化や環境ストレスに起因するNOの制御とLjGlb1-1の関係」を検討し、「根粒の機能改善へのLjGlb1-1の応用」が可能かどうか明らかにすることを目的とする。目的達成のため4つのサブテーマを設け、そのうち、本年度に取り組んだ3サブテーマの実施状況は、次のとおりである。 1.LjGlb1-1の老化関与の解明および高発現による老化遅延の試み:LjGlb1-1高発現・低発現型系統、野生型系統の根粒の老化進行度を評価し、LjGlb1-1の高発現が根粒老化の遅延に寄与するか検討した。高発現系統では老齢根粒でも窒素固定活性が高く、根粒NOレベルが低く、老化関連遺伝子の発現を低く保っていた。以上の結果から、LjGlb1-1高発現によるNO制御の強化が、根粒老化の遅延に寄与すると結論付けた。 2.NOと老化・環境ストレスの関与の詳細:根粒の老化とNOの関係の詳細について検討した。根粒をNO供与剤(SNAP)、NO除去剤(cPTIO)及び、根粒老化に関与する植物ホルモン(ABAとエチレン)で処理し、窒素固定活性、老化関連遺伝子の発現、根粒NO量、感染細胞の形態等を検討した。いずれの実験でも、NO、ABA、エチレンによる老化の誘導はcPTIOにより抑制されため、ABAとエチレンによる根粒老化は、NOを介していると考えられた。 3.LjGlb1-1の環境ストレス関与の解明と高発現によるストレス耐性の試み:低温または冠水処理した植物について、窒素固定活性、NO産生、感染細胞の形態等を指標とし、共生系のストレス耐性を評価した。いずれのストレス処理でも、高発現系統では窒素固定活性を高く維持した。冠水処理に関しては、高発現系統で植物と根粒のNO量が低く維持され、感染細胞のダメージが抑制されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、サブテーマ1~3を実施し、サブテーマ1, 2については完了した。ミヤコグサと根粒菌の根粒共生系において、ミヤコグサのクラス1植物ヘモグロビン遺伝子を高発現する形質転換系統は、根粒の着生数は野生型系統と差は無いものの、根粒の窒素固定活性が高く、活性の持続期間が長いという、農業生産上極めて有益な特徴を有することを見出した。さらに、植物体内で生産される一酸化窒素(NO)の量や植物ホルモンと老化関連遺伝子の発現との関係を精査し、高活性・長寿命の分子的背景を明らかにした。この成果は、学術誌Plant and Cell Physiologyに掲載された。サブテーマ3についても順調に進行中である。高発現系統の根粒は、冠水耐性を示すことを見出し、根粒共生系の冠水耐性にもNO量調節が深く関与していることを明らかにした。この成果は、学術誌Antioxidantsで企画されている「植物NO特集」への寄稿を依頼されており、平成31年5月に投稿予定である。高発現系統の根粒が低温耐性を示すことも確認済みであるが、低温処理時は冠水処理時と異なり、低発現系統が高発現系統と対照的な表現型を示さなかった。この原因として、低温耐性と冠水耐性とでストレス緩和への作用機序に差異があると考えられたが、その詳細は不明である。以上のように、これから考察を必要とする課題はあるものの、計画通りに進捗していることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的な推進方策に変更はない。これまでに、研究目的達成のために設けた4つのサブテーマのうち、2つのサブテーマが完了している。次年度は着手中のサブテーマである「LjGlb1-1の環境ストレス関与の解明および高発現によるストレス耐性の試み」を完遂し、残るサブテーマ「根粒の老化遅延や環境ストレス耐性が収量増加に寄与するか」についても着手・完了することを目指す。 1. LjGlb1-1の環境ストレス関与の解明および高発現によるストレス耐性の試み LjGlb1-1の高発現系統が冠水ストレスを示すことや、その分子的背景については既に検討済みであるため、次年度は低温ストレスについて検討する。高発現系統の根粒が低温ストレス耐性を示すことは確認済みであるが、その分子的背景は不明であるため、低温処理時のNO量の変化、必要に応じて活性酸素種量の変化も調べる。また、根粒だけでなく、全身的な応答の違いについても詳細に調査し、冠水耐性と低温耐性の作用機序の違いに言及することを目指す。 2. 根粒の老化遅延や環境ストレス耐性が収量増加に寄与するか これまでに、LjGlb1-1の高発現系統が、根粒の老化遅延、冠水耐性、低温耐性を示すことが明らかとなった。これらの表現型が、収量増加・減収抑制に寄与するか評価する。植物は3ヶ月の長期栽培を行い、経時的なデータを採取する。また、栽培開始から1週、1及び2ヶ月後にそれぞれ1~2週間の低温または冠水ストレスを与え、影響を検討する。生長、開花数、結実数、種子重量及び種子の窒素含有量を主な評価の指標とし、LjGlb1-1高発現・低発現系統と野生型系統とで比較する。
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Research Products
(6 results)