2018 Fiscal Year Annual Research Report
オオムギ属植物における二次代謝の進化のメカニズムとその生態学的意義
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18J11919
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
宇部 尚樹 鳥取大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | オオムギ / ホルダチン / ラッカーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は病原菌の感染に対し、抗菌性の防御物質を用いた防御機構を有する。オオムギ属植物は、4つのクレード(H、Xu、XaおよびIクレード)に分類される。これまでにオオムギ属植物の防御物質を調べたところ、XaとIクレードに属する種はベンゾキサジノン類(Bx類)を蓄積する一方で、栽培オオムギを含むHとXuクレードの種はホルダチン類などの桂皮酸アミド二量体類を蓄積することが明らかとなった。この防御物質の変化は桂皮酸アミドを二量化する酵素遺伝子の獲得により生じたと考えられる。しかし、ホルダチンなどの生合成に関わる遺伝子は特定されていない。またBx類と桂皮酸アミド二量体の生理活性の違いはわかっておらず、防御物質の変化の意義は不明である。そこで、本研究の目的を「オオムギ属植物における二次代謝の進化のメカニズムと意義の解明」とし研究を行なった。 オオムギ由来の粗酵素を用いたラッカーゼの反応により、ホルダチンが生成されることがわかった。またホルダチンの蓄積には第2染色体の末端領域が関わることがわかっている。そこで、この領域に存在するラッカーゼ遺伝子を調べ、2つの遺伝子を候補とした。 タバコにおいて候補遺伝子を異種発現させ、組換え酵素を得た。組換え酵素の機能解析を行なったところ、HS活性を示すことがわかった。オオムギにおける候補遺伝子の遺伝子発現量はHS活性およびホルダチンの蓄積量と同じ動態を示した。これらの結果より、候補遺伝子がホルダチンの生合成に関与することが示唆された。 桂皮酸アミド二量体類とBx類の生物活性の評価を行なった。桂皮酸アミド二量体類は糸状菌の病原菌に対して、強い抗菌活性を示した。一方で、細菌の病原菌に対しては、Bx類の方が強い抗菌活性を示した。これらのことから、オオムギ属植物の進化における桂皮酸アミド二量体類の獲得は糸状菌の病原菌に対する防御機構に関与していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホルダチンは、オオムギ芽生えに特異的に蓄積する抗菌性物質である。ホルダチン合成酵素の発見、および酵素遺伝子の単離および生物活性の評価を目標に研究を行なった。困難が予想された研究であるが、着実に成果を積み重ねることができ、昨年度の進展は非常に大きい。 まず、オオムギ染色体断片置換コムギを用いた探索から候補遺伝子を含む染色体領域を絞り込んだ。さらにこの領域に座乗している遺伝子をデータベースで解析し、2種のラッカーゼ遺伝子を候補として選抜した。これらの遺伝子をアグロバクテリウム・インフィルトレーション法でタバコに導入し発現させた。タバコから酵素を抽出しp-クマロイルアグマチンを基質として酵素反応を行うと、ホルダチンAが生成した。このホルダチンAは天然物と同一の立体配置であった。立体特異的なフェノール性物質の二量化反応を触媒する酵素を発見することに成功した。 また桂皮酸アミド二量体類とBx類の生物活性の評価を行なった。桂皮酸アミド二量体類は糸状菌の病原菌に対して、強い抗菌活性を示す一方で、細菌の病原菌に対しては、Bx類の方が強い抗菌活性を示した。これらの結果から、桂皮酸アミド二量体類の獲得は糸状菌の病原菌に対する防御機構として獲得されたものであると推察された。多くの病原菌を扱うことから、それぞれの培養および抗菌活性の測定条件を確立する必要があったが、最適な条件を見出し、生物活性を評価することができた。そして、最終的には各化合物の意義を明らかにできた。 以上のことから、本研究課題は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに経皮酸アミド二量体類とBx類の生物活性の違いを明らかにした。オオムギの粗酵素からHS活性を見出し、ホルダチンの蓄積量に関わる染色体領域からHS遺伝子の候補遺伝子を推定した。加えて、アグロバクテリウム・インフィルトレーション法を用い、タバコにおいて候補遺伝子を異種発現し、機能解析を行なった。その結果、HS活性を有していた。しかしながら候補遺伝子の欠損植物の作成は達成されていない。 本年度は、候補遺伝子の欠損植物の作成を引き続き行う。得られた欠損植物の確認には、シーケンス解析を行い、配列の変異を明らかにする。そして、ホルダチンの蓄積を有無を調べることで、候補遺伝子のホルダチン生合成への関与を調べる。他のオオムギ属植物におけるHSオルソログの機能解析を行う。特にHordeum murinumは、 桂皮酸アミド二量体であるムリナミド類を蓄積することから、HSと類似したオルソログを発現していると考えられる。H. murinumをはじめとしたオオムギ属植物におけるHSオルソログの有無を明らかにする。HSオルソログを有する場合、遺伝子発現発現量やタバコを用いた異種発現を行う。得た組み換えタンパク質の基質特異性などの性状解析を行い、HS との比較を行う。H. murinumの有するHSオルソログの機能と配列の比較を行うことで、どの領域がホルダチン類とムリナミド類の生成を区別しているのかを明らかにする。 以上の研究を行うことで、ホルダチンの生合成酵素および遺伝子を同定することができる。加えて、オオムギ属植物の進化の過程で生じた経皮酸アミド二量体類の獲得がどんな変異によってもたらされたものかを明らかにする。これらにより、オオムギ属植物の進化過程における二次代謝の変動のメカニズムを示すことができると考える。
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