2018 Fiscal Year Annual Research Report
津波の減災に有効な多重防御構造の最適化に関する研究
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18J11942
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
五十嵐 善哉 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 河川遡上津波 / 二線堤 / 多重防御構造 / 接近流速 / 跳水 / エネルギー減衰 |
Outline of Annual Research Achievements |
東北地方太平洋沖地震津波の後,北海道白糠町では海岸林,堤防,堀を組み合わせた多重防御構造がほぼ完成している.しかし,その隣には無堤の掘込河道である和天別川が存在し,河川遡上津波の氾濫の危険がある.そこで,河川遡上津波対策としての河川沿いの樹林帯,堀の背後への減災効果と対岸への悪影響を検討するため水理模型実験を行った.特に,樹林帯が密な場合,樹林帯と堀が河川と平行でないと,樹林帯前面で発生する定在波により,対岸側の水深が大きくなる.樹林帯と堀を設置した対岸側の流速については,樹林帯・堀の角度と河道のフルード数の関係により,定在波が対岸側に達するまでにエネルギーが減衰されるか否かが重要であることを示した.堀が深い場合,跳水によりエネルギーは減衰するものの,水位を高くするため対岸側の水深は大きくなる. 一方,岩手県大槌町では,高さ14.5mの防潮堤の背後に,第2堤防を設置する二線堤が計画されている.沖で砕波が生じない場合など,防潮堤天端で限界水深が現れずに射流のまま越流する危険側の現象が生じる可能性がある.そこで防潮堤で限界水深が現れない場合の二線堤構造の減勢効果を検討した.防潮堤のみの場合,防潮堤天端のフルード数が1より大きい場合,堤防背後の水深はほとんど変化せず,流速が大きくなるためエネルギー減衰効果は小さくなる.二線堤について,防潮堤天端における速度水頭が増すため,より小さな越流水深で二線堤間において跳水は発生しなくなった.二線堤構造について,防潮堤天端のフルード数が1より大きい場合,エネルギー減衰効果は.防潮堤天端のフルード数が1の場合より小さいものの,単線堤の場合の差より小さい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は,地域特性に応じて津波減災に適した多重防御構造を提案することを目的として,水理模型実験により物理メカニズムを解明し,水理実験では再現できない長周期波等の影響を加味して一般化するため,津波氾濫シミュレーションモデルの改良に取り組んでいる.その結果,2018年度には,4本の国内学術雑誌と2本の国際学術雑誌,1本の国内シンポジウム,2本の国際シンポジウムに研究成果を発表している.IAHR-APD(国際水圏工学会アジア太平洋支部)では,河川遡上津波対策が対岸側に悪影響を及ぼさない条件を明確にしており,優秀論文賞(対象164論文のうち2論文)を受賞した. 2018年度に実施した防潮堤天端で限界水深が現れない場合の水理模型実験の結果については,国内学術雑誌に投稿中であり,要旨の第1審査を通過している.また,北海道の実樹木の伐採と成長段階に応じた津波の減勢効果については,国際シンポジウムに研究成果を投稿中であり,Abstractの第1審査を通過している.
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Strategy for Future Research Activity |
申請者がこれまでに行った水理模型実験では跳水現象や複合的反射現象などの鉛直方向流速や加速度が卓越する現象が観察された.これらを津波氾濫シミュレーションモデルで再現するには,3次元の解析が必要である.しかし,3次元の津波解析モデルは計算負荷が大きいため,申請者は,計算負荷を抑えつつ鉛直方向の流速や加速度を無視しないブーシネスク型方程式の導入を試みている.特に堤防越流時の水深の薄い流れについては,非物理的な数値振動が生じやすい.この解析を安定して解くため,波先端の処理や流れ方向の速度差に起因する粘性項の改良,移流項の空間方向差分の高次精度化や時間方向差分の高次精度化,非物理的な振動を抑える解析法の導入などに継続して取り組んでいる.これらの改良により,これまで申請者が実施した水理模型実験の結果を改良モデルでどの程度再現可能かを確認する. 検証後,実地形の津波氾濫シミュレーションが可能な構築済みの平面二次元津波解析モデル(断層モデル+大領域から小領域へと計算結果を境界条件で接続し小領域計算を行うモデル)の最終領域に,改良モデルを組み込む.その後,従来モデルと改良モデル,実現象(震災時のデータ)を比較し精度の検証を行う.また,改良モデルを用いて,いくつかの代表地域において解析を行い,地域特性に応じて最適な多重防御構造(各構造のスケールや位置関係,樹林帯特性等)を提案する.
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Research Products
(9 results)