2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J11978
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Research Institution | Niigata University |
Research Fellow |
劉 東波 新潟大学, 現代社会文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 西域物 / 井上靖 / 松岡譲 / 宮澤賢治 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目となる本年度は、井上靖、松岡譲、宮澤賢治の「西域物」を中心に、それぞれの「西域物」の創作方法を考察し、日本近代文学における「西域物」が誕生した原因を追究した。具体的に得られた研究成果は以下の通りである。 ①井上靖の河(川)に関する「西域物」を中心に研究を進めた。「崑崙の玉」の初版から改訂版までに至った経緯を調べ、作者の創作方法の改変を追究した。また、神奈川近代文学館で実地調査を行い、「井上靖文庫」における作家の自筆原稿や創作ノートを調査した。その結果、井上靖が参照した『大唐西域記』や『水経注』の版を特定することができた。また、書簡類を通して、井上靖が「西域物」を創作したとき利用した典拠資料の入手経路を解明した。 ②松岡譲の「西域物」の創作背景を考察した。『敦煌物語』を中心に、日本近代の中央アジア探検隊と「西域物」の誕生のつながりを明らかにした。『敦煌物語』の創作経緯を調べるため、長岡市郷土資料館で半年間の資料調査を行った。資料館所蔵の松岡譲関連資料、図書、物品などを整理し、それぞれのリストを作成した。この段階の調査結果を『新潟県文人研究』に発表した。また、これらの資料を寄付した、松岡譲の長女・半藤末利子氏にインタビューをすることもできた。これらの研究成果を、国内外の学会で口頭発表を行った。 ③宮澤賢治の「西域物」の原点を探究することができた。宮澤賢治は日本近代文学で最初に「西域物」を創作した作家である。本研究は、賢治の「西域物」の全体像を把握し、賢治が持っていた『漢和対照妙法蓮華経』の編訳者・島地大等との関わりを明らかにした。また、賢治の「西域物」の原点を再検討することができた。賢治が残した書簡、ノートを参照し、賢治と島地大等との関係から論を展開し、近代中央アジア探検と賢治の「西域物」との関わりを論じた。この研究成果は、国内の学会で口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、井上靖の「西域物」である「崑崙の玉」について考察するとともに、松岡譲の『敦煌物語』、さらには宮澤賢治の「西域物」にも考察の範囲を広げ、研究の進展を図った。 井上靖「崑崙の玉」に関連しては、神奈川近代文学館において実地資料調査を行い、作品の考察を深めた。松岡譲『敦煌物語』に関連しては、長岡市郷土資料館における実地資料調査、半藤末利子氏へのインタビュー、海外・国内の学会での口頭発表を行い、その一端を『新潟県文人研究』への投稿論文にまとめた。宮澤賢治の「西域物」に関連しては、国内の学会で口頭発表を行い、考察を進めている。 これらの成果を国内外の学会で研究発表を行い、4本の学術論文にまとめたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、井上靖の後期の「西域物」(「狼災記」、「僧伽羅国縁起」、「羅刹女国」)をめぐって考察を行い、前期・中期の「西域物」と比較し、井上の史料の活用法を究明する。特に、その典拠資料に当たる敦煌学関連の資料との比較研究を行う。 また、松岡譲、宮澤賢治の「西域物」に関する資料調査を行い、各作家の創作方法を究明する。さらに、同じ作家の作品に限らず、三人の作家のすべての「西域物」を視野に入れる。それに基づいて、敦煌学の誕生及び発展が、日本近代文学における「西域物」への影響を究明する。
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Research Products
(10 results)