2018 Fiscal Year Annual Research Report
現代ネパールにおける近代医療と疾病経験の研究―糖尿病患者の事例に着目して―
Project/Area Number |
18J12519
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Research Institution | Kyoto University |
Research Fellow |
中村 友香 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | ネパール / 近代医療 / 糖尿病 / 身体 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は主に、ネパールでの現地調査と国内外での成果発表を行った。 現地調査については、2018年6月から2019年3月にかけて9か月間、ネパールのカトマンドゥ市及び中西部ダン郡を中心に実施した。本調査の主要な目的は、①糖尿病治療をめぐる近代医療の状況、②糖尿病患者やその家族たちが近代医療をどのように経験しているのかについてを明らかにすることであった。そのため、まず糖尿病専門外来におけるインタビュー及び観察調査を行った。ここでは、患者や家族が医療従事者とどのような関係を構築しているのかについてに着目した。また、患者の家庭においては、食事療法の実践や薬剤服用、ヨーガ教室やアーユルヴェーダ薬の利用などの実態について参与観察を実施した。これらの調査から、患者や家族たちは医療従事者との関係構築や疾病の意味付け、治療実践に能動的に関わり、多様な知識を吟味しながら近代医療と関わる様子が明らかになった。それに加えて、調査地域であるダン郡の医療状況や社会・文化的背景をより詳しく理解するために、同地域に多く住む、タルー族とマガール族の近代医療の利用状況、病気治しをめぐる伝統的な知識・治療者に関する調査も行った。 現地調査の成果発表としては、糖尿病専門外来での調査結果を、「身体をつなぐ会話―現代ネパールの糖尿病クリニックを事例に―」と題して、『文化人類学』に投稿し、第83巻4号に掲載された。マガール族に関する調査に関しては“‘Jaisi’ Traditional Practitioners in the Kham Speaking Magar Area of Mid-Western Nepal”という論文を、現地で活動する石田龍吉医師と共同で執筆した。本論文はネパールの国際学術雑誌(Studies in Nepali History and Society)に第23巻2号に掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期調査を通じて、調査地域における近代医療の実態と糖尿病治療をめぐる日常生活及び近代医療利用への理解を深め、博士論文執筆に向けたデータ・資料収集を実施することができた。また、学術論文の推敲・投稿を通じて、理論的・方法論的な考察が進んだ。調査及び研究成果の発信について、研究計画通り、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、これまでの研究成果報告と博士論文執筆を活動の中心とする。 研究成果報告については、日本文化人類学会(6月)にて、糖尿病患者の薬剤服用に関する発表を行うことが決定している。また、ネパールにおける近代医療の現状と社会的排除に関して、2019年度国際人類学民族学学会( International Union of Anthropological and Ethnological Sciences Inter-Congress) での報告を行うことが決定している。そのほか、ネパールの近代医療をめぐる歴史と特徴についての論文を、日本南アジア学会が刊行する学術雑誌『南アジア研究』に投稿予定である。これらの成果をもとに理論を精緻化させ、博士論文を提出する(11月)。 博論執筆後は、博論の補足及び今後の研究課題と調査の方針について検討するため、ネパールにて1か月程度の現地調査と情報収集を行う予定である。
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Research Products
(4 results)