2018 Fiscal Year Annual Research Report
J.S.ミルと『女性の隷従』――文明社会の担い手としての女性という視点から――
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18J12579
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山尾 忠弘 慶應義塾大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | J.S.ミル / 『女性の隷従』 / 社会思想史 / 経済学史 / スコットランド啓蒙 / シドニー・スミス / ウィリアム・トンプソン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は二つの学会で個人研究報告を行い、それぞれの学会で討論者および参加者との活発な討論を行った。具体的には2018年6月3日の経済学史学会第82回研究大会における「J.S.ミルにおける女性の就労:『経済学原理』第三版改訂を中心に」および2018年10月7日の社会思想史学会第43回大会における「J.S.ミルとウィリアム・トンプソン:リベラル・フェミニズム概念の批判的再検討にむけて」がそれである。また、査読付き学術誌への投稿としては、2018年3月28日の日本イギリス哲学会第42回研究大会において報告した原稿をもとにして「J.S.ミルにおける女性の性格形成:シドニー・スミス「女性教育」との対比を手がかりに」と題した論説を査読付き学術誌『社会思想史研究』43号(2019年秋刊行予定)に投稿し、二人の専門家による査読を経て掲載が決定している。本論文の意義は、現代では忘れられた19世紀ブリテンにおいてスコットランド啓蒙の思想的系譜を引き継いだシドニー・スミスの論説「女性教育」を再発見し、さらに国内外の研究で等閑視されていたスミスとミルの女性論に関する思想史的影響関係を論証したことにある。本論文とそれに先立って査読付き学術誌『イギリス哲学研究』41号(2018年3月)に発表された「初期ミルにおける文明社会と女性:『女性の隷従』の思想史的一源泉」よって、18世紀スコットランド啓蒙と19世紀功利主義に関する思想史的継承関係の一側面が、文明社会の担い手としての女性という概念を補助線として明らかにされたことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では二つの学会の全国大会で個人研究報告を行ったほか、一本の論文を査読付き学術誌に刊行することができた。この点から、当初の研究計画はおおむね順調に進展しているということができる。ただし、諸般の事情から当初予定していたオックスフォード大学サマヴィルカレッジのミル・プロジエクトでの文献調査は叶わなかった。しかし、当該プロジェクトは現在ウェブでの研究成果およびミルの自筆書き込みの積極的な公開を促進しており、本研究課題の進捗について大きな影響を及ぼすことはないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、引き続き学会での個人報告と査読付き学術誌への投稿を軸に進めていく。具体的にはまず6月のマルサス学会で「19世紀ブリテンにおける社会主義と女性:ウィリアム・トンプソンとJ.S.ミルの対比を中心に」という報告を行い、年度内に『マルサス学会年報』に査読論文を刊行することを目指す。次に、執筆途中の博士論文の主要部分を11月にキプロスで行われる『女性の隷従』出版150周年記念の国際学会において報告する。また、6月に福岡大学で行われる経済学史学会にも参加し、参加者との討論を行う予定である。さらに、昨年度経済学史学会において報告したミルの賃金論に関する論文を『経済学史研究』へ年度内に投稿する予定である。
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