2018 Fiscal Year Annual Research Report
太陽彩層加熱現象の究明に向けた磁気流体波散逸機構の数値モデリング
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18J12677
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂上 峻仁 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 太陽大気 / 太陽風 / 磁気流体数値計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、太陽の高温大気構造が形成・維持される物理機構を解明することを目的としている。太陽大気は対流層内部で生成される磁気エネルギーで満たされており、これを定常的に解放することができれば彩層・コロナと呼ばれる高温大気が形成・維持できると期待されるため、磁気エネルギーの大気中での輸送と散逸を磁気流体数値計算によって第一原理的に解くことで、太陽大気形成・維持の再現とその物理機構の解明を目指す。この目的達成に向けて、昨年度は数値計算コードを完成させ、光球で励起させた磁気流体波が磁束管を伝播・散逸する過程の数値実験を多数回行った。 計算の結果、太陽光球 (約 6000 度) から太陽彩層 (数万度) へ、上空に向かって緩やかに温度が上昇する様子と、光球から数千 km を境に温度が数十万度から百万度まで急激に上昇してコロナが形成され、十分遠方では太陽風が駆動されるまでの物理現象を第一原理的計算から再現することに成功した。彩層からコロナにかけて温度が急激に変化する遷移層では、下層からの衝撃波と遷移層の相互作用でスピキュールと呼ばれるジェット現象が間欠的に起きており、その高さ・速度などの性質は太陽の彩層観測と整合的であった。 本研究は、太陽以外の恒星大気・恒星風の自発的形成・維持機構の議論にも適用でき、我々は実際に太陽より低温の主系列星の大気・恒星風の数値実験も行った。その結果、低温の主系列星の大気も、太陽同様に数万度の彩層、数百万度のコロナを経て、super-Alfvenic regime の恒星風に接続していることを確認できた。この成果と太陽についての上記研究結果を比較したものは、国際学会 “Cool Stars 20”、“AGU 2018 Fall Meeting” でポスター発表し、国内学会「日本天文学会秋季年会」で口頭発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、数値計算コードの完成ののち、数値実験を行い、その結果を解析している段階にある。すでに観測されている太陽大気構造を概ね再現できていることを確認したほか、太陽風構造の再現、他の恒星の大気・恒星風構造への適用も進んでいるため、研究はこの点において順調に進展している。一方、現段階での数値実験では、主に太陽光球からのエネルギーインプットの大きさが太陽大気の構造に与える影響を調べるため、光球での対流運動の速度のみを自由パラメータとして計算を行ってきた。当初の計画では光球での対流運動だけでなく、太陽大気中の磁場構造についても幅広いパラメータのもとで数値実験を行う予定であったが、これについては十分には実行できなかった。また、太陽大気構造の観測との比較についても、再現された大気構造から観測されるべき放射スペクトルを計算して観測値と比較するなど、より定量性を高める必要性を認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、太陽大気 (彩層・コロナ)・太陽風が光球での対流運動にどのように依存するかだけではなく、太陽大気を貫く磁束管の形状に対して太陽大気・太陽風構造がどのように依存するかを調べる必要がある。これまでの研究により、磁束管の形状はパラメータを操作することによって幅広く試行できるようにしてあるため、計算は速やかに実行されるものと考えている。また、当初の研究計画通り、数値計算によって再現された彩層の大気構造を観測と比較することも必要である。数値計算で得られた結果を用いて、公開コードを用いることにより、観測されるべき彩層放射スペクトルを取得し、実際に観測されるスペクトルと比較する予定である。
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Research Products
(5 results)